めいまが

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン

めいまが 2023年10月号

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン「めいまが」です。

1.超短編双玉詰将棋コンクール 結果発表①

担当:駒井めい

本誌2023年8月号で超短編双玉詰将棋コンクールの出題を行いました。
めいまが 2023年8月号 - めいまが
普通詰将棋部門の結果発表を行います。
ビギナー部門及び協力詰部門の結果発表は次号で行います。

普通詰将棋部門 結果発表

普通詰将棋部門は6作(第3番~第8番)を出題しました。

〔 解答者 〕
解答者数は7名で、全員が全問正解でした。

ルービックキューブ
・たくぼん
・占魚亭
・久保紀貴
・negitarou
・風みどり
springs
※敬称略

〔 普通詰将棋部門 順位 〕
解答者には各作品に1~5の五段階評価(5が最も良い評価)をお願いしました。
評点の平均値を算出し(少数第三位以下切り捨て)、順位を決定しました。

1位 4.66点 第8番 springs
2位 4.28点 第6番 武田裕貴作
3位 3.66点 第4番 久保紀貴作
4位 3.57点 第3番 シナトラ作
4位 3.57点 第5番 山咲優作
6位 2.50点 第7番 negitarou作

第3番 シナトラ作

詰将棋

〔 解答成績 〕
正解者数:7名、誤解者数:0名、無解者数:0名

〔 評点 〕
5点:0票、4点:4票、3点:3票、2点:0票、1点:0票
⇒ 平均値:3.57点(4位)

〔 解答 〕
(A)69玉、(イ)57桂生、同香、54成桂、(B)44桂 迄5手

(イ) 54成桂は同香、53歩合、43香成迄同手数駒余り。

(A) 67玉は57金合、同香に同桂成が逆王手で逃れ。
(B) 同香は53銀が逆王手で逃れ。

〔 作者コメント 〕
「最も難しい1手詰」のようなキャッチコピーで、微妙な位置に限定打する1手詰を時
折見かけます。
そのタイプの作品を成立させる原理として用いられているのが、攻方王を見つめる1/n battery。
最遠打してしまうと、バッテリーの間に挟まった駒が移動合でどんどん動いて最終的にバッテリーが開き、逆王手で逃れるという寸法です。
そして、作意では微妙な位置に限定打し、バッテリーを構成する玉方駒は全く働かなくなって詰み。
つまり、そのタイプの作品においてバッテリーは紛れのためだけの装置なのです!
もちろんこれは1手詰なので仕方ないのですが、もう少し手数があれば、バッテリーを開くための連続移動合の方を作意に出来るのではないか?そう思って作ったのが本作です。

2手目、43香成を防いで54成桂しか受けがなさそうですが同香で無意味。
代えて57 桂不成とするのが1/3 batteryをhalf batteryに変える珍しい手で、同香に54成桂とすれば、さらに同香の時に53銀!と3つ目の移動合が出て逆王手できるわけです。
作意は2つ目の移動合を取らずに桂を打って収束します。

初手はもちろん48香のunpinが目的ですが、1/3 batteryのラインに王が自ら突っ込むというのは表現として悪くないかと思います。
ピンメイトに拘ったので駒が増えてしまいました。

〔 解説 〕

初手43香成と指せれば受方玉が詰みます。
しかし、攻方48香を動かすと、受方38龍の利きが攻方58玉に当たってしまいます。
これを予め防ぐのが初手69玉の開王手。

代えて初手67玉も意味は同じですが、57金合 同香 同桂成と進めて攻方玉が徹底的に逆王手をされてしまいます。

攻方は43香成を実行したいので、攻方の方針は分かりやすいです。
受方がどう抵抗するかが考えどころ。
受方が2手目54成桂と移動合をして、受方73飛の利きを通すのは有力そうです。

3手目43香成には4手目同飛と取れるわけです。
しかし、攻方が3手目54同香と成桂を取れば、結局攻方に43香成を許す展開になります。

初手69玉迄の局面において、6筋の配置にご注目ください。

受方61香の利きを3枚の受方駒が遮っている状態。
この利きが完全に通れば、攻方69玉への王手になります。
受方としては攻方が43香成と指すのを防ぎながら、受方63成桂・64銀・65桂の三枚を6筋から退かす目的で5筋に移動合をしていけばよいわけです。
これが実現すれば、攻方は受方玉への王手を継続するのが困難になるでしょう。

2手目は57桂生の逆王手。

攻方玉に王手が掛かっていて、3手目43香成は指せません。
攻方玉に掛かった王手を解除しながら受方玉に王手をするには、3手目57同香しかありません。

受方は4手目54成桂と移動合をして、受方73飛の利きを通すことで攻方の43香成を防ぎます。
これで受方61香の利きを遮っているのは受方64銀のみになりました。

ここで攻方が5手目54同香と香による王手を続けると、

受方に6手目53銀と移動合をされます。

攻方69玉に対して受方61香で逆王手が掛かっています。
攻方がこの王手を解除しながら受方玉に王手をするには、7手目62角成や63桂成とするしかありません。
しかし、8手目同香と結局逆王手を継続されて逃れています。

従って、4手目54成桂迄の局面で、攻方は別の手を選ぶ必要があります。

5手目44桂と指せば受方玉が詰上り。

受方は6手目44同成桂と取りたくても、攻方57香の利きが自玉(受方玉)を当たってしまうので指せません。

本作は攻方玉に逆王手をするために、受方が連続で移動合をする展開が面白いです。
攻方が初手で自ら6筋に飛び込むところや、最終手で受方の移動合を逆用するところなど、主題を際立たせるための拘りも随所に見られます。

〔 短評 〕
風みどり
初手は他にないがなかなか応手がヤヤコシイ。

たくぼん
不気味な成桂配置には秘めたる返し技がありますね。54成桂は毒饅頭

negitarou
四手目が罠の一手!、ついでに飛車の横利きを通す。
作者予想:山咲優

★今回のコンクールでは作者予想は課していなかったのですが、予想してくださった方は短評と一緒に掲載しています。

久保紀貴
双玉ならではの不思議な応酬。2手目は銀かと思ったが、意表を突かれた。
作者予想:springs

占魚亭
桂をタネ切れにするための成桂配置が残念だが、作意と紛れ(67王だと逆王手を兼ねた58銀~57金の連続合で逃れ)に双玉らしさがあって上手く創られている。

springs
5手で移動中合×2。ぱっと見では、2択のうち片方は61香の逆王手で逃れるような作りかと予想した(が違った)。

ルービックキューブ
どうしても駒数が増えてしまうタイプの作品ですが、最低限で成立させているのは凄いです。
作者予想:久保紀貴

第4番 久保紀貴作

詰将棋 b)先後反転

(補足説明)
a)は通常通り先手が後手玉を詰ましてください。
b)では先後を反転、つまり後手が先手玉を詰ましてください。このとき、先手と後手の持駒を入れ替えてください(後手:飛角金、先手:残り全部)。

〔 解答成績 〕
正解者数:7名、誤解者数:0名、無解者数:0名

〔 評点 〕
5点:1票、4点:2票、3点:3票、2点:0票、1点:0票
⇒ 平均値:3.66点(3位)

〔 解答 〕
a) 45飛、35角合、24金、(イ)同桂、14角 迄5手
b) 31角、22飛合、23金、(ロ)同と、14飛 迄5手

(イ) 36玉は27角迄。
(ロ) 12玉は13飛迄。

〔 作者コメント 〕
狙いは(b)先後反転という、双玉ならではのツイン形式です。
手順は飛/角打に角/飛合から最終手は14角/飛迄で、目新しくはないですが対称性はあると思っています 。

〔 解説 〕
同じ図に対して「a)先手が後手玉を詰ます」「b)後手が先手玉を詰ます」という二つの設定で解く作品。
a図から見ていきます。

後手25玉を詰ましたいわけですが、先手が初手14角と打つのは有力そうです。
しかし、後手に2手目35玉と逃げられます。
先手は14角と打つ前に、後手が35玉と逃げるの予めを防いでおく必要があります。

先手が初手45飛と打って、後手に合駒をさせるのがシンプルな解決手段。

2手目35歩合なら、先手が3手目14角と打って詰み。
2手目36玉と逃げても、先手が3手目27角と打って詰み。
ただ、ここでは後手に2手目35角合の返し技があります。

先手13玉に逆王手が掛かっているので、3手目14角が指せません。

先手は3手目24金と指して、先手玉に掛かっている王手を解除しながら後手玉に王手を掛けます。

4手目36玉なら5手目27角迄で詰上り。
4手目24同桂なら5手目14角迄で詰上り。

続いてはb図を解いていきます。
a図からの変更点は「後手が先手玉を詰ます」という設定になること。
このとき、先手と後手の持駒は入れ替えます。

今度は後手が攻めて先手13玉を詰まします。
後手が初手14飛と打つのは有力そうですが、先手に2手目22玉と逃げられます。

そこで後手が初手31角と打って、先手に合駒をさせます。

先手が2手目22歩合と受ければ、後手が3手目14飛と打って詰み。
先手が2手目12玉とかわせば、後手が3手目13飛と打って詰み。
ただ、今度は先手に2手目22飛合という上手い返し技があります。

後手25玉に逆王手が掛かっているので、後手は3手目14飛が指せません。

この逆王手を受けるために、後手は3手目23金と打ちます。

4手目12玉には5手目13飛迄で詰上り。
4手目同とには5手目14飛迄で詰上り。

本作は先後を反転させるという双玉を活かした設定。
面白いのは設定だけでなく、二つの作意手順の間に密接な関連性があります。
一方では飛打に角合、もう一方では角打に飛合。
とどめの駒は一方では角打、もう一方では飛打。
異なる設定で駒種が入れ替わった手順が現れるのが見所。

〔 短評 〕
久保紀貴(作者)
双玉ならではのツイン設定が狙い。

ルービックキューブ
こんなルールは初めて見ました。手順の対照性が見事です。
作者予想:シナトラ

たくぼん
前後反転とは面白い趣向ですねえ。手順も逆王手が分かり易いので楽しめました。

占魚亭
対照的な手順でよく出来ている。Duplexを詰将棋でやる場合、持駒をどうするかが悩み所だったけど入れ替えるのは盲点だった(今度、マネさせてもらいます)。

風みどり
先後反転でジラヒというのは初めて見た!

★ジラヒ(Zilahi)はある手順では「取られる駒がA」で「詰める駒がB」、別の手順では「取られる駒がB」で「詰める駒がA」と駒の役割が入れ替わるような構成のこと。従って、本作はジラヒではありません。
Zilahi - Helpmate Analyzer

negitarou
角の逆王手と、飛車の逆王手の対比が良かったです。(両方とも、最終手の着手は1四の地点ですね。)
作者予想:シナトラ

springs
飛角の役割交換と逆王手2種。4手目の変化まで揃っているのがよい。14角/14飛から作り始めたと予想。

第5番 山咲優作

詰将棋

〔 解答成績 〕
正解者数:7名、誤解者数:0名、無解者数:0名

〔 評点 〕
5点:0票、4点:4票、3点:3票、2点:0票、1点:0票
⇒ 平均値:3.57点(4位)

〔 解答 〕
38香、(イ)37角合、57玉、45玉、35金、同玉、46龍 迄7手

(イ) 26玉は45玉迄。
(イ) 37他合は55玉、35玉、46龍迄。

〔 作者コメント 〕
双方が相手玉の逃げ道を与えます。

〔 解説 〕

攻方56玉を動かせば、受方36玉に開王手が掛かります。
ただ、初手55玉は2手目37玉と上部に逃げられてしまいます。

そこで初手38香から受方に合駒をさせることで、受方玉の逃げ道を封鎖します。

2手目26玉とかわすのは3手目45玉で詰み。
2手目37歩合は55玉 35玉 46龍迄で詰み。

ここは2手目37角合が最善の受け。

受方角の利きで3手目55玉を防いだ意味があります。

ただ、受方は代わりに受方17飛の利きを遮ってしまったので、攻方に3手目57玉を許してしまいます。

4手目35玉なら5手目46龍で詰み。
2手目37角合が大した受けになっていないように思えるかもしれません。

しかし、45の地点への利きが外れたことで、4手目45玉と逃げられます。

4手目35玉との違いは、5手目46龍と指したときに6手目同角成と取れることです。
4手目35玉に5手目46龍だと、6手目同角成と取ろうとしても攻方38香の利きが受方35玉に当たってしまうので指せません。

従って、5手目35金に6手目同玉と捨駒で受方玉を3筋に呼び込みます。

7手目46龍迄で詰上り。

本作は双方が玉の逃げ先を与え合う展開が面白いです。
合駒で発生した受方角を逆用する詰上りも、狙いに沿った丁寧な作りです。

〔 短評 〕
風みどり
短評で悩まされるタイプの問題。

たくぼん
55王としたいところでしたが37角がなかなかの防手。金1枚余計にいりますね。

negitarou
玉を3筋に呼び戻す。
作者予想:springs

ルービックキューブ
玉を天王山に行かせない限定合でした。それをピンする詰上がりも良いですね。
作者予想:springs

占魚亭
頭2手で仕込み完了。後はピンメイトの形に持ち込むだけ。

久保紀貴
攻方玉の動きを再現する角合が奥ゆかしいが、意味づけがダブり気味なのは少し気になる。ピンメイトは気持ちよい。
作者予想:山咲優

springs
押すのが駄目なら引く先手玉。37合を打たせる理由に退路封鎖と17飛の利きを止めることの2つあるのが若干気にはなるが、盤上9枚は美しくてよい。

第6番 武田裕貴作

詰将棋

〔 解答成績 〕
正解者数:7名、誤解者数:0名、無解者数:0名

〔 評点 〕
5点:4票、4点:1票、3点:2票、2点:0票、1点:0票
⇒ 平均値:4.28点(2位)

〔 解答 〕
(A)43角、(イ)同桂、56香、(ロ)55桂、64金、同龍、44銀成 迄7手

(イ) 53玉は52と迄。
(ロ) 55他合は44銀成迄。

(A) 32角は53玉、65桂、62玉、73桂成、同角、同金、同玉以下逃れ。
(A) 56香は55角以下逃れ(44銀成が指せない)。

〔 作者コメント 〕
53銀のピン、アンピンを巡る攻防が狙い。
初手の限定打が気に入っています。

〔 解説 〕

受方玉の逃げ道である55の地点を封鎖してから、攻方が44銀成と指して詰ますのが考えられる詰み形の一つ。
55の地点の封鎖は、攻方が56香と指して受方に合駒をさせれば達成できそうです。

そこで初手56香と打ってみます。

2手目55歩合には

64金 同龍と受方龍を逸らせば、44銀成が指せて受方玉が詰みます。

しかし、初手56香には2手目55角の逆王手があります。

3手目44銀成と指したくても、受方73龍の利きが攻方33玉に当たってしまいます(攻方53銀はピンされた状態)。
55の地点を封鎖するよりも先に、攻方53銀を自由に動かせるようにした方が良さそうです(ピンの解除、いわゆるアンピン)。

初手43角が正解。

2手目53玉は3手目52と迄で詰み。
問題は2手目55玉とかわされても大丈夫かどうかですが、3手目65角成と今打った角を成れば詰み。

2手目43同桂が最善の受け。

受方43桂のおかげで、44銀成と指しても受方73龍の利きが攻方33玉に当たりません。
ただ、今3手目44銀成を実行しても、4手目55玉と逃げられてしまいます。

これでようやく3手目56香から55の地点を封鎖しに行けます。

4手目55角には5手目44銀成迄で詰み。
受方はこれ以上延命できそうに見えませんが、4手目55桂と移動合をする妙手があります。

受方桂が43の地点から退いたことで、再び攻方53銀は自由に動けなくなりました。
ただ、逆王手を食らわずに55の地点を封鎖することには成功しました。

3手目64金に4手目同龍とすれば、受方73龍の利きが逸れて攻方53銀が自由に動けるようになります。

この2手が入るのは受方55桂がいるおかげです。
初形から初手64金を実行すると、2手目55玉や同角とされます。
2手目同龍と受けてくれても、3手目56香に4手目55龍の移動合で逃れていて、全く上手くいきません。

話を戻すと、7手目44銀成と指して詰上り。

55の地点は受方桂で封鎖されていて、受方龍の利きも逸れていて攻方玉に当たっていません。

本作は攻方銀のピン・アンピンをめぐる攻防が面白い作品。
手順前後をすると逆王手を食らう紛れもあり、双玉のお手本のような手順構成です。

〔 短評 〕
風みどり
みなさん真面目に逆王手とかいれるから似たような感じになってる?

ルービックキューブ
いい手順ですが既視感がありますね。
作者予想:山咲優

springs
53銀のピン・アンピンで手順が一貫しているのがよい。

久保紀貴
53銀のピンを巡るストーリーの組み立てが見事。紛れの逆王手も華を添える。
作者予想:武田裕貴

たくぼん
第5番に置かれていたら4手目55角としてしまったかもしれませんね。怖いのは46角ではなく73龍だったんですね。

negitarou
初手(限定打)が好手。桂馬の移動合で飛車の横利きを通すが、代わりに角の利きが遮られるのがミソ。

占魚亭
気持ちのいい受方桂二段跳ね。

第7番 negitarou作

詰将棋

〔 解答成績 〕
正解者数:7名、誤解者数:0名、無解者数:0名

〔 評点 〕
5点:0票、4点:0票、3点:3票、2点:3票、1点:0票
⇒ 平均値:2.50点(6位)

〔 解答 〕
45桂、同龍、54銀、(イ)44龍、43桂成、23玉、22馬 迄7手

(イ) 44合は43銀成迄。
(イ) 55合は同角、同龍、43銀迄同手数駒余り。
 ※44龍は43桂成以下作意と同様に詰む(55合が無駄合になる)。

〔 作者コメント 〕
初手は龍の横利きをずらすための一手。
四手目は、玉方のカウンター。

〔 解説 〕

受方33玉に逃げ道はないので、もう一息で詰みそうに見えます。
しかし、初手22馬は2手目42玉、初手22銀生は2手目24玉と逃げられます。
初手44銀も2手目同龍と取られた上に攻方玉への逆王手が掛かります。

初手54銀と開王手をするのは少し捻った手。

2手目44歩合は受方47龍の利きが遮られて、3手目43銀成迄で詰み。
ただ、2手目77龍と根元の角を取った手が、攻方玉への逆王手になっていて逃れています。
受方47龍の利きが攻方77角に当たっている状態を予め解消しておきたいところです。

そこで初手45桂に2手目同龍と捨駒で受方龍を動かすのが正解。

これで3手目54銀を実行します。

4手目44歩合は5手目43銀成迄で詰み。

攻方の43銀成を防ぐ目的で、4手目55歩合は有効そうな応手。

5手目43銀成は6手目同龍と取られます。
ただ、これには5手目55角と合駒を取って詰んでいます。

以下6手目55同龍に7手目43銀成迄で駒余りの詰み。

3手目54銀と指した局面に戻ります。

ここで4手目44龍と移動合をするのが強力な受け。

5手目43銀成と指したくても、受方44龍の利きが攻方74玉に当たってしまいます。
つまり、攻方54銀は自由に動けない、いわゆるピンされた状態です。
ただ、受方44龍も攻方77角のせいで自由に動けない状態であることに気付きます。

受方44龍が自由に動けないことを逆用して、5手目43桂成が解決策。

23への利きがなくなるので、若干指しにくさはあります。
しかし、6手目23玉と逃がしても、7手目22馬と指して詰上り。

本作は後半3手は受方玉を追う緊張感のない展開で、この点は少し残念なところ。
ただ、その代わりに前半4手は緊張感のある面白い手順になっています。
攻方が逆王手を防ごうとすると、駒がピンされてしまう手順で、受方龍のしつこい受けが光る作品です。

〔 短評 〕
ルービックキューブ
最後にゆるんでしまったのがもったいないですね。
作者予想:negitarou

風みどり
盛り上げておいて階段ハズされた感じ。

springs
初手の質駒解除の捨駒が面白いと感じた。収束が決まるといいのだが。

占魚亭
受方47龍を七段目から移動させてからバッテリー開放。43桂成で締めたいけど難しいか。

久保紀貴
途中下車する龍の動きが面白い。収束のゆるみは少し気になる。
作者予想:negitarou

たくぼん
龍の移動合がうまい防ぎですが、主要駒がそのまま残るのはちょっと残念。

★ビギナー部門での出場も可能でしたが、作者の希望で普通詰将棋部門での出場となりました。
★収束の緩みで評価を下げましたが、狙いは十分に評価されました。
★狙いを持って作品を創ることは非常に重要で、細かい技量は自然と身に付いていくでしょう。今後に期待。

第8番 springs

詰将棋

〔 解答成績 〕
正解者数:7名、誤解者数:0名、無解者数:0名

〔 評点 〕
5点:4票、4点:2票、3点:0票、2点:0票、1点:0票
⇒ 平均値:4.66点(1位)

〔 解答 〕
(A)75角、同飛、46玉、(イ)42玉、53馬、(ロ)同玉、44龍 迄7手

(イ) 35歩合は44龍迄。香合、桂合も同様。
(イ) 35銀合は同馬、同飛、44龍迄同手数駒余り。金合、角合も同様。
  ※42玉は53馬以下作意と同様に詰む(35銀合は無駄合になる)。
(ロ) 32玉は44桂迄。
(ロ) 同桂は33龍迄同手数駒余り。

(A) 46玉は42玉、53馬、32玉以下逃れ(44桂が指せない)。
(A) 45玉は42玉、53馬に同桂が逆王手で逃れ。

〔 作者コメント 〕
あえて逆王手を掛けさせるような捨駒が狙い。
理由は56桂がピンされるのを予防するため。

〔 解説 〕

攻方が44龍と指せれば受方玉が詰み。
しかし、初手44龍と動かしたくても、受方33香の利きが攻方35玉に当たってしまいます。
攻方35玉を4筋に動かして、攻方34龍を自由に動けるようにする手順を考えてみたいところ。

初手45玉はどうでしょうか。
攻方26馬の利きが通って開王手になっています。

2手目42玉に3手目53馬と進めます。

4手目53同玉は5手目44龍迄で詰み。
4手目32玉は5手目44桂迄で詰み。
しかし、4手目53同桂が攻方玉への逆王手になっていて逃れています。

代えて初手46玉と指すのはどうでしょうか。

2手目42玉に3手目53馬と進めます。

4手目53同玉は5手目44龍迄の詰み。
4手目53同桂と指されても攻方玉への逆王手にならないのが先程との違いで、5手目33龍迄の詰み。
しかし、4手目32玉と指されると攻方が困ります。

初手45玉の展開では5手目44桂と跳ねて詰みでした。
しかし、この局面で5手目44桂は受方76飛の利きが攻方46玉に当たってしまうので指せません。

初形に戻ります。

攻方玉を動かす前に、初手75角を入れるのが解決策。

2手目64歩合は3手目同角迄で詰み。
2手目75同飛が最善。

攻方はわざと自玉(攻方玉)に逆王手を掛けさせたことになります。
攻方が何を狙っているのかは、3手目46玉から進めると分かります。

4手目35歩合は5手目44龍迄の詰み。
4手目35銀合は同馬 同飛 44龍迄で7手駒余りの詰み。
4手目42玉が最善で、5手目53馬と指します。

6手目53同桂は7手目33龍迄で駒余りの詰み。
6手目53同玉は7手目44龍迄で詰上り。

6手目32玉は7手目44桂迄で詰上り。

初手46玉との違いは、受方飛が76ではなく75の地点に動いていることです。
44桂と跳ねても受方飛の利きが攻方46玉に当たりません。

本作は攻方がわざと逆王手を掛けさせる驚きの展開が見所。
攻方龍をアンピンするのが基本方針ですが、攻方玉を初手で動かすと逆王手を掛けられたり別の駒をピンされたり、結局攻方玉が足を引っ張ることになります。
その紛れを踏まえると、攻方玉に逆王手を掛けさせるのが解決策になるのは、かなり意外性があります。

〔 短評 〕
風みどり
いつ75角を決行するかの三択問題。初手とはやるねぇ。

たくぼん
王は初手45にも46にも行けるのにわざわざ75角と同飛と逆王手を掛けさせてから46王とする手順には不思議さがいっぱい。

久保紀貴
あえて逆王手を食らいに行くのがよい。
作者予想:シナトラ

negitarou
7五角として、わざと(?)逆王手を喰らうのが面白い。
作者予想:久保紀貴

占魚亭
32玉に備えて敢えて逆王手させてピンを外すのが好手段。

ルービックキューブ
逆王手の意外性が離れた角配置で少し薄れていますが、いろいろな変化と紛れの差異が楽しめました。
作者予想:武田裕貴

★普通詰将棋部門の1位はsprings氏の作品でした。おめでとうございます。
★わざと逆王手を掛けさせるインパクトや緻密な手順構成で高評価を獲得しました。

2.編集長のおすすめ作品

担当:駒井めい

① 神無七郎 作

Web Fairy Paradise 2011年5月
非連続王手詰 3手

掲載:WFP第35号(2011年5月号)

【 非連続王手】 ※「非王手可」とも呼ばれる。
攻方に王手の義務がない(王手をしても良い)。

24角不成、23玉、13角成 迄3手

普通の詰将棋では攻方は必ず王手しなくてはいけません。
「非連続王手」はこの王手義務を撤廃する変則ルール。
攻方は王手をしてもよいですし、王手でない手を指しても構いません。
これ以外は普通の詰将棋と同じルールです。

本将棋の実戦とほとんど同じルールのように思えます。
ただ、達成したい目的が異なります。
本将棋の実戦では「自分の勝ち」を目指すのに対し、本作は詰将棋なので「相手玉の詰み」を目指します。

初形を再掲します。

攻方が動かせるのは攻方13角のみで、24の地点に動かすしかありません。
問題は角を成るか成らないか。
飛・角・歩は成れば単純に利きが増えます。
成るのが自然なので、初手24角成と指してみます。
非連続王手ルールなので、攻方は王手ではない手も指せます。

対して受方は何を指せばよいでしょうか。
受方駒は持駒も含めても盤上の玉しかありません。
よく見ると、受方玉は合法的に動ける先がないのです。
これで受方玉に王手が掛かっていれば「詰み」になりますが、今は王手が掛かっていません。
このような状態のことをチェスでは「ステイルメイト(Stalemate)」と呼び、チェスのルールでは引き分けになります。

一方、将棋ではこのような状態になったときにどうするか、ルールで定められていません。
ただ、今考えてる局面で言えば、受方は何を指しても必ず反則になってしまうので、実戦では「攻方の勝ち」と結論付けられるでしょう。

「攻方の勝ちなのだからこれで解決」と思うのは早計です。
攻方は「受方玉を詰ます」という目的を達成していないのです。
これ以上局面を進めようがないので、「攻方の失敗」となります。
「勝ち」を達成する上で「詰み」は手段の一つに過ぎないために、この結論の違いが生じています。

初形に戻ります。

初手24角成は実戦では勝ちになっても、詰将棋では失敗になってしまうのでダメと分かりました。
代えて初手24角”不成”とするのが正解です。

普通の詰将棋で飛・角・歩の不成は、打歩詰が関わらない限り出てきません。
攻方の王手義務を撤廃すると、別の理由で出てくるのが面白いところ。
角を成らないことで受方が2手目23玉と指す余地が生まれ、”ステイルメイト”が回避されます。

これで3手目13角成とすれば詰上り。

初形に戻って手順を振り返ります。

24角不成、23玉、13角成 迄3手

本作はチェスで言うステイルメイト回避(Stalemate avoidance)が狙いの作品。
その手段が角不成であり、打歩詰と無関係なのが注目すべきポイント。
また、受方がステイルメイトになった場合、本将棋の実戦では「攻方の勝ち」なのに、詰将棋では「攻方の失敗」という結論になるのが興味深いところです。

② Kankuh Kobayashi 作

Problem Paradise 2019年

Helpmate in 1, 4 solutions

出題:Issue 87、結果発表:Issue 89
Archives – Problem Paradise

【 Helpmate in n (H#n) 】
黒から指し始め、黒白協力してn手(最短手数)で黒のキングをメイトする。
もしnが半整数なら、白から指し始める。
詰将棋と異なり白にチェックする義務はない。

1.Qa8 e4#
1.Qa7 e3#
1.Qf3 exf3#
1.Qd3 exd3#

白は黒キングをメイトするように攻めます。
Helpmateでは黒は味方のキング(黒キング)がメイトされないように抵抗するのではなく、メイトされるように白に協力します。
つまり、白も黒も黒キングをメイトするのが目的です。
黒から指し始めて1手でメイトするので、黒→白と指します。
「4 solutions」と書いてあるので、正解手順は4つあります。

初形を再掲します。

黒の手番ですが、黒が何を指したらよいかはすぐには分かりません。
白の手番と仮定して、白が黒キングにどのようなチェックを掛けられるか見てみましょう。

その一つが1...Rh1。

当然黒キングはメイトされていません。
チェックを解除するには2.Kxh1と白ルークを取るか、

2.Kg2とかわすかのどちらか。

実際には黒から指し始めるので、1...Rh1に対して黒が2.Kxh1や2.Kg2と受けられなくなるような着手を、黒の1手目で指せればよいことになります。
しかし、黒駒はキングを除けばa3のクイーンのみで、これを満たす着手はなさそうです。

初形に戻ります。

白が黒キングにチェックする方法は他にもあります。
それは1...e3や1...e4とb2の白ルークの利きを通すこと。

h2の黒キングに逃げ道はありませんが、2.Qxb2と白ルークを取ってチェックを解除できます。

初形に戻ります。

実際には黒から指し始めるので、b2の白ルークによるチェックの邪魔にならない位置に、a3の黒クイーンを動かせればよいわけです。
しかし、a3の黒クイーンを試しに動かしてみると、これがなかなかに大変なことが分かります。

例えば1.Qa5。

e2の白ポーンを動かして黒キングにチェックを掛けると、

b2の白ルークを取る受けが消えています。
しかし、2.Qd2とb2の白ルークの利きに干渉されてメイトになっていません。

b2-g3間のマスに利かせないように、黒クイーンを動かす必要があるわけです。

初形に戻ります。

1.Qe7はどうでしょう。

b2-g2間のマスに利いていないので良さそうです。
しかし、白キングにチェックが掛かっています。
次に1...e3などとe2の白ポーンを動かしたくても、白キングに掛かったチェックを放置することになってしまいます。

初形に戻ります。

正解手順は4つありますが、そのうちの1つが1.Qa7。

a7の黒クイーンがf2の地点に利いてしまっています。
しかし、1...e3とすることで解決し、黒キングがメイトされます。

初形に戻ります。

同様の考えで1.Qa8も正解。

a8の黒クイーンがg2の地点に利いています。
今度は1...e4とすれば黒クイーンの利きを遮って、黒キングをメイトできます。

初形に戻ります。

正解手順はあと2つあります。
一番単純な方法は黒クイーンを盤上から消すことです。
そのために1.Qd3とするのが正解。

1...exd3と黒クイーンを取れば、黒キングがメイトされます。

初形に戻ります。

黒クイーンを消去する方法はもう一つあり、それは1.Qf3。

1...exf3と黒クイーンを取れて、黒キングがメイトされます。

初形に戻って手順を振り返ります。

1.Qa8 e4#
1.Qa7 e3#
1.Qf3 exf3#
1.Qd3 exd3#

本作は白ルークの利きを通すために白ポーンを動かしますが、ポーンが移動可能な4パターンが全て登場する構成。
これが1手という短い手数で簡潔に表現されているところも好感が持てます。

3.掲載記事の募集

詰将棋やチェス・プロブレムに関する記事を執筆してくださる方を募集しています。
内容は論考、作品紹介、入門、詰棋書紹介、宣伝など何でも構いません。
単発・連載どちらでも受け付けます。
字数制限は特にありません。
原稿を編集長の駒井めい(meikomaivtsume[at]gmail.com)まで送付してください。