めいまが

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン

めいまが 2024年1月号

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン「めいまが」です。

1.編集長のおすすめ作品

担当:駒井めい

① 小林敏樹 作

Problem Paradise 2019年
詰将棋 5手 ※変同あり

出題:Issue 87、結果発表:Issue 89
Archives – Problem Paradise

42銀不成、同香、(A)43角成、同香、65桂 迄5手
42銀不成、同馬、(B)43香成、同馬、45桂 迄5手

(A) 43香成は同香、45桂に同香と取られて詰まない。
(B) 43角成は同馬、65桂に同馬と取られて詰まない。

攻方の戦力は結構充実していますが、玉周りの受方駒が厄介です。
攻方の持駒には桂があって、これは上手く活用していきたいところ。
しかし、初形では桂で王手が掛かりません。

ただ、桂が打てれば簡単に詰むことに気付いたでしょうか。
例えば初形から攻方45香がいなくなれば、

攻方が45桂と打って詰み。

初形から攻方65角がいなくなれば、

攻方が65桂と打って詰みます。

初形に戻ります。

攻方45香・65角のどちらかを消去する方法はあるでしょうか。
攻方45香を消去したいなら攻方は43香成と指したいですが、43の地点には攻方銀がいるのですぐには指せません。
攻方65角を消去したいなら攻方が43角成と指したいですが、やはり攻方43銀が邪魔になっています。
つまり、攻方が桂を打つのに攻方45香・65角が邪魔になっていて、攻方45香・65角を消去するのに攻方43銀が邪魔になっています。

初手は42銀不成が正解。

攻方22飛の利きが遮られたのをいいことに、2手目52玉と逃げるのは

3手目43角成迄で詰みます。

初手42銀不成と指した局面に戻ります。

2手目は他にも候補があり、42同香・同馬の二つです。

2手目42同香はどうでしょうか。

43の地点にいた攻方銀を消去できたので、3手目に43香成や43角成が指せます。
ここで注意したいのが受方42香が45の地点に利いていることです。

3手目43香成に4手目同香と進めて攻方45香を消去しても、

5手目45桂に

6手目45同香と取られてしまいます。

2手目42同香と指した局面に戻ります。

3手目の正解は43角成。

4手目は43同香の一手。

初形から攻方65角が消去できたので、5手目65桂と打って詰上りです。

初手42銀不成と指した局面まで戻ります。

2手目42同馬と取る手もありますが、これはどうでしょうか。

43の地点にいた攻方銀を消去できたので、やはり3手目に43香成や43角成が狙えます。
2手目42同香の手順では3手目は43香成が不正解で、43角成が正解でした。
今度は逆で、3手目は43香成が正解で、43角成が不正解です。

不正解である3手目43角成から確認します。

4手目は43同馬の一手。

初形から攻方65角を消去できたので、5手目に65桂が打てます。

しかし、65の地点に受方43馬が利いています。
6手目65同馬と取られます。

初手42銀不成に2手目同馬と指した局面に戻ります。

3手目の正解は43香成。

4手目は結局43同馬の一手ですが、何が違うのでしょうか。

初形から攻方45香を消去できたので、5手目45桂と打てます。

桂を打つのが65から45の地点に変わったので、今度は受方43馬に取られません。

初形に戻って手順を振り返ります。

42銀不成、同香、(A)43角成、同香、65桂 迄5手
42銀不成、同馬、(B)43香成、同馬、45桂 迄5手

(A) 43香成は同香、45桂に同香と取られて詰まない。
(B) 43角成は同馬、65桂に同馬と取られて詰まない。

本作は邪魔駒(攻方45香・65角)を消去するために、更に邪魔駒(攻方43銀)を消去する必要があるという構造。
特徴的なのは2手目で手順が分岐、つまり変同(変化同手数駒余らず)があることです。
「作意手順は一つ」という詰将棋の一般的な価値観に基づくなら、変同があることは作品の価値を下げます。
しかし、本作の変同は創作の都合で取り除けなかったものではありません。
意図的に組み込まれたものです。

2手目42同香・42同馬どちらの手順でも、3手目に43香成と43角成を指すことが可能です。
2手目42同香の手順では、3手目は43香成が不正解(紛れ)で、43角成が正解。
2手目42同馬の手順では、3手目は43香成が正解で、43角成が不正解(紛れ)。
正解と紛れの関係が入れ替わっています。
作品の狙いを複数の等価な手順で表現しているわけです。
従来の詰将棋の価値観と大きく異なるため、評価は悩ましい作品と言えるかもしれません。
ただ、挑戦的で非常に価値が高い作品なのは間違いありません。

② 真T作

たくぼんの解図日記
第2回偶数手ばか詰作品展 2007年12月2日
偶数手ばか詰 6手

結果発表:http://www.dokidoki.ne.jp/home2/takuji/gusute2k.pdf

【 偶数手ばか詰 】
受方から指し始め、先後協力して最短手数で受方の玉を詰める。
※今で言う協力詰(ばか詰)+受先。

18香、29龍、28角、38龍、17玉、29桂 迄6手

本作は「偶数手ばか詰」というルールで出題されたもの。
今で言う「ばか詰」+「受先」です。
※昔はもっぱら「ばか詰」と呼ばれていましたが、今では「協力詰」と呼ばれることもあります。

「ばか詰」は普通の詰将棋とどうルールが違うのでしょうか。
攻方の目的が受方玉を詰ますことなのは、普通の詰将棋と同じです。
違いは受方の対応です。
普通の詰将棋では受方は自玉(受方玉)が詰まないように抵抗します。
一方、ばか詰では受方は自玉(受方玉)が詰むように攻方に協力します。
ばか詰では攻方も受方も受方玉を詰ますのが目的というわけです。

では、「受先」とは何でしょうか。
これは「受方から指し始めてください」という変則ルールです。
普通の詰将棋でもばか詰でも攻方から指し始めるのが基本なので、変則ルールと言えば変則ルールです。
変則ルールの中でも変更の程度は比較的軽微です。
ただ、手番の違いが作品の表現に与える影響はとても大きいです。

出題図を再掲します。

前述の通り、受方から指し始めます。
受先を初めて見た人は、初手で何を指せるのかいまいちピンと来ないかもしれません。
攻方から指し始める場合、攻方は受方玉に王手を掛けるため、受方は必ず王手を外す手を指します(王手を外せなければ詰み)。
ただ、出題図では受方玉に王手は掛かっていません。
受方は初手で自由な手が指せるわけです。
初手の候補手は多く、何を手掛かりに解いたらよいか分かりにくいかもしれません。

出題図を攻方手番と仮定して、詰みそうな手順がないか探っていくことにします。

攻方駒は39の地点に配置された龍のみ。
攻方は最低でももう一枚駒を入手する必要がありそうです。
攻方には王手義務があるので、攻方が指せる手は28龍・29龍・38龍のどれか。
攻方が38龍と指すのは、桂を入手できるのでパッと見良さそうです。

受方が詰まないように抵抗するなら、38玉と攻方龍を取ります。
本作はばか詰なので詰むように協力します。
受方としては攻方龍を取らずに、盤上に残すのが自然でしょう。
そうすると17玉と逃げることになります。

攻方の持駒には桂があるので、29桂と打つのはどうでしょうか。

詰んでいるように見えた人は、26の地点にいる受方駒が飛車であることを忘れてはいけません。
29同飛成と攻方29桂を取れるので詰んでいません。

受方26飛の利きを何とかする必要があります。
受方26飛を退かして利きを逸らすのは、真っ先に浮かぶ解決策です。
しかし、受方26飛は受方玉の退路を封鎖する役割も担っています。
そもそも退かすのも簡単ではなさそうです。
消去法で受方26飛の利きを予め遮ることになりそうです。

出題図に戻ります。

攻方が29龍と指して、受方に合駒を指せるのはどうでしょうか。

最後に攻方が29桂と打つことを考えて、受方は28角と合駒します。

この2手を入れてから、攻方が38龍を実行するとどうでしょうか。

17玉に29桂と進めてみます。

受方26飛の利きは受方28角に遮られているので、攻方29桂は取られません。
しかし、この局面では別の問題が生じています。
受方28角が攻方38龍の利きを遮っています。
従って、18玉と逃げられるので詰んでいません。

18の地点を予め封鎖しておく必要があるわけですが、攻方がそれをやるには手数が足りません。
ここでいよいよ「受先」ルールの出番です。

出題図に戻ります。

ここまで出題図を攻方手番で考えてきました。
本来は受方手番だったのを思い出してください。
初手で受方が18香と指せば解決します。

18の地点を封鎖するのが目的なら、別の駒でも良さそうです。
しかし、18の地点に打つ駒は香でなければなりません。
これは将来攻方が29桂と打つことを見越したものです。
18の地点に打つ受方駒は、斜めに利きのない歩・香・桂・飛が候補。
歩は二歩、桂は行き所のない駒、飛は品切れなので、香を打つしかありません。

これで攻方が2手目29龍を指してみます。

29の地点に利かないように3手目28角と合駒をします。

これで準備が整いました。
満を持して攻方が4手目38龍と指して桂を入手します。

5手目17玉とかわして、

6手目29桂と打てば詰上りです。

初形に戻って手順を振り返ります。

18香、29龍、28角、38龍、17玉、29桂 迄6手

本作は受方飛の利きを遮ると攻方龍の利きも遮られてしまう構造。
これを補うのが初手18香です。
初手18香の瞬間はこの手の意味が分からないのが良いです。
18と28の地点に受方駒を打つのが本作の特徴ですが、”29の地点に利かせないように”という共通の目的で打つ駒種が限定されるのも気持ちよいですね。

③ Marjan Kovachevic 作

M. Myllyniemi JT 1st Prize 1980年

Mate in 2

ビューアで鑑賞:https://yacpdb.org/#13228

【 Mate in n (#n) 】
白から指し始め、黒がどのように応じてもn手以内で黒のキングをメイトする。
詰将棋と異なり、白にチェックする義務はない。

1.Se3? (threat: 2.Bc4#)
 but 1...Bd6!

1.Be4? (threat: 2.Sd6#)
 but 1...Bd5!

1.Qe8! (threat: 2.c7#)
 1...Bd6 2.Bc4#
 1...Bxd5 2.Sd6#

※ナイト(Knight)の棋譜表記は通常「N」ですが、チェス・プロブレムでは「S」と表します。

白の目的は2手以内に黒キングをメイトすること。
対して黒はメイトされないように抵抗します。
チェスの実戦と同じく白から指し始めます。

攻める側である白は、チェックしなくてもよいです。
ここが詰将棋との大きな違いなのでご注意を。

初形を再掲します。

黒キングの周りで黒駒のない地点はb6・c4・c5・c6の4地点。
どの地点にも白駒が利いていて、黒キングに逃げ道はありません。
あともう一息で黒キングがメイトされそうに思えますが、実際はどうでしょうか。

例えば、1.Bc4は黒キングへのチェックになっています。

しかし、c4の地点にはb3の黒ビショップが利いているので、1...Bxc4と取られます。

他には1.Sc3でも黒キングにチェックがかかります。

しかし、c3の地点にはb4の黒ビショップが利いているので、1...Bxc3と取られます。

初形に戻ります。

黒キングにすぐにチェックをかけるのは無理そうです。
白の2手目で黒キングがメイトされるように、白の1手目は事前準備に充ててみます。

例えば、1.Re7はどうでしょうか。

これはb6の地点に黒キング以外の黒駒が利いていないことに目を付けた手です。
黒が何もしなければ、1...Rb7で黒キングがメイトされます。

しかし、白が1.Re7と指す手に対して、黒が1...Bxe7と単純に白ルークを取ってしまう手があって失敗です。

初形に戻ります。

少し攻め方を変えて、1.Se3はどうでしょうか。

h5の白クイーンの利きを通すのを狙っています。
次に2.Bc4ができれば、白クイーンの利きが完全に通ります。
ダブルチェックが掛かって、黒キングはメイトされています。

ただ、1.Se3に対しては1...Bd6とする手があります。

これはe6の白ルークの利きを遮る手。
白が2.Bc4と指しても、黒キングがメイトされていません。

2...Kxc6とかわす手が生じています。

初形に戻ります。

1.Be4とするのはどうでしょうか。

先程と同様に、h5の白クイーンの利きを通すのを狙っています。
次に2.Sd6と指せれば、白クイーンの利きが完全に通ります。
ダブルチェックが掛かって、黒キングはメイトされています。

ただ、1.Be4に対しては1...Bd5とする手があります。

これはe4の白ビショップの利きを遮る手。
白が2.Sd6と指しても、黒キングはメイトされていません。

2...Kxc6とかわす手が生じています。

結局、黒キングがc6に逃げる道を作られてしまいます。

初形に戻ります。

黒キングにc6へ逃げられないように…と考えると、意外な手が浮かんできます。
正解は1.Qe8と白クイーンを動かしてしまう手です。

白クイーンの利きを通すことを考えてきましたが、その白クイーンを動かしてしまうのは意表を突かれます。
次に2.c7と指せれば、e8の白クイーンの利きが通って黒キングがメイトされます。

白が1.Qe8と指した局面に戻ります。

黒としては2.c7のメイトを防ぐ手段が二つあります。

一つ目は1...Bd6。

e6の白ルークの利きを遮るのが目的。
2.c7には2...Kb6と逃げることができます。

1.Qe8に対して黒が1...Bd6と指した局面に戻ります。

ただ、これは白が2.Bc4と手を変えれば解決します。

b3の黒ビショップで2...Bxc4と取りたくても、b2の白ルークが黒キングに当たってしまいできません。
初形のb4の黒ビショップが動いたため、b3の黒ビショップがピンされたわけです。
従って、これで黒キングがメイトされています。

白が1.Qe8と指した局面に戻ります。

黒が2.c7のメイトを防ぐ手段はもう一つあります。
二つ目は1...Bxd5。

c6の地点に黒駒を利かすのが目的。
2.c7には2...Bc6を用意しています。

1.Qe8に対して黒が1...Bxd5と指した局面に戻ります。

ここは白が2.Sd6と手を変えれば解決します。

b4の黒ビショップで2...Bxd6と取りたくても、b2の白ルークが黒キングに当たってしまいできません。
初形のb3の黒ビショップが動いたため、b4の黒ビショップがピンされたわけです。
従って、これで黒キングがメイトされています。

初形に戻って手順を振り返ります。

1.Se3? (threat: 2.Bc4#)
 but 1...Bd6!

1.Be4? (threat: 2.Sd6#)
 but 1...Bd5!

1.Qe8! (threat: 2.c7#)
 1...Bd6 2.Bc4#
 1...Bxd5 2.Sd6#

本作は白クイーンの利きを二枚の白駒が遮っている構造。
白が2.Bc4のメイトを狙うと1...Bd6で防がれ、2.Sd6のメイトを狙うと1...Bd5で防がれる紛れがあります。
白が1手目で白クイーンを動かしてしまうのも面白いですが、興味深いのは手順の構造。
本手順では黒が1...Bd6と受ければ2.Bc4、1...Bd5と受ければ2.Sd6でメイト。
不思議なことに、紛れでは成立しなかった攻防が本手順で実現しています。
ピンメイトも組み合わせて、とても手順の調和が取れた作品です。

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