めいまが

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン

めいまが 2023年12月号

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン「めいまが」です。

1.編集長のおすすめ作品

担当:駒井めい

① かいりゅーになりたい 作

詰将棋メーカー 2023年8月13日
詰将棋 5手 ※変同あり

出題・解答:変同利用 | かいりゅーになりたい | 詰将棋メーカー

34飛、同飛、25馬、同金、27金 迄5手
34飛、同角、35馬、同銀、47金 迄5手

玉に逃げ道はありませんが、至る所に受方駒が利いています。
25の地点には角と金、35の地点には飛と銀と二枚ずつ利いています。
27の地点に金、47の地点に銀と一枚ずつ利いています。
守りの薄い27や47の地点が狙い目になるでしょうか。

例えば、初手25馬に

2手目25同金と取ってくれれば、

3手目27金迄で詰みます。

しかし、初手25馬に対しては

2手目25同金ではなく、25同角とされて詰みません。

では、初手35馬はどうでしょうか。

2手目35同銀と取ってくれたら、3手目47金迄で詰みます。

しかし、初手35馬に対しては

2手目35同銀ではなく、2手目35同飛とされて詰みません。

結局のところ、25と35の地点にそれぞれ受方駒が二枚ずつ利いているのが問題です。

初形に戻ります。

この問題を解決するのが初手34飛。

2手目34同角と取ってくれれば受方33飛の利きが遮られ、

2手目34同飛と取ってくれれば受方43角の利きが遮られます。

気になるのは2手目35歩などと合駒をする手ですが、

3手目35同馬に同銀 47金迄で5手駒余りの詰み。

初手34飛と指した局面に戻ります。

2手目34同角には、

受方33飛が35の地点に利かなくなったのを利用して、今度こそ3手目に35馬と指すのが有効になります。

4手目35同銀の一手に、5手目47金迄で詰上りです。

初手34飛と指した局面に戻ります。

2手目34同飛はどうでしょうか。

受方43角が25の地点に利かなくなったのを利用して、3手目25馬と指すのが有効になります。

4手目25同金の一手に、5手目27金迄で詰上りです。

初形に戻って手順を振り返ります。

34飛、同飛、25馬、同金、27金 迄5手
34飛、同角、35馬、同銀、47金 迄5手

本作は変同を利用した飛角の相互遮断が狙い。
二つの手順で馬や金の移動先も異なっていて、手順の対照性に細心の注意が払われています。
要は複数の手順によって一つの狙いを表現していて、模範的な作りと言えるでしょう。

詰将棋は「作意手順は一つである」という価値観でこれまで発展してきました。
正解手順と扱うことになる変同(変化同手数駒余らず)は、基本的に避けて作られるべきものです。
しかし、最近では変同を積極的に利用した「作意手順が複数ある」作品も増えてきました。
従来の詰将棋の価値観とは相当異なるわけですが、これはチェス・プロブレムの影響を強く受けています。
詰将棋における有効な表現方法として、今後市民権を獲得していくでしょうか。

② 左真樹 作

詰将棋パラダイス 1979年10月
安南ばか詰 11手

【 安南 】
味方の駒が縦に並ぶと、上の駒の利きは下の駒の利きになる。
【 ばか詰 】あるいは【 協力詰 】
先後協力して最短手数で受方の玉を詰める。

55玉、42玉、43歩不成、32玉、44玉、31玉、
32歩不成、21玉、33玉、11玉、22歩成
迄11手

攻方駒は歩と玉のみ。
普通の詰将棋で受方玉に王手を掛けるには、初手53歩成しかありません。

ただ、2手目53同玉と取られて詰みません。

本作は普通の詰将棋ではなく安南ばか詰です。
「安南」と「ばか詰」という二つの変則ルールから成り立っています。

まずは「ばか詰」とは何でしょう。
※昔はもっぱら「ばか詰」と呼ばれていましたが、今では「協力詰」と呼ばれることもあります。
攻方の目的が受方玉を詰ますことなのは、普通の詰将棋と同じです。
違いは受方の対応です。
普通の詰将棋では受方は自玉(受方玉)が詰まないように抵抗します。
一方、ばか詰では受方は自玉(受方玉)が詰むように攻方に協力します。
ばか詰では攻方も受方も受方玉を詰ますのが目的というわけです。

初手53歩成と指した局面に戻って、ばか詰として考えてみます。

2手目53同玉と取ってしまうと、攻方の継続手がなくなってしまいます。
代えて2手目32玉や33玉と逃げれば、攻方のと金が残ります。
しかし、と金一枚で受方玉を詰ますことはできません。
攻方玉も動かす必要がありますが、攻方玉を動かすのは大変です。
攻方玉で受方玉に直接王手を掛けるのは、攻方にとって自玉(攻方玉)を王手に晒す着手なので指せません。
攻方玉を動かしたときに、香などの利きが通って開王手になるなら可能です。
しかし、攻方玉を動かして開王手が掛かる形ではありません。
いくら受方が協力してくれても、原理的に詰ますのが不可能なのです。

ここで登場するのがまだ説明していなかった「安南」です。
安南将棋という変則将棋があり、それが変則詰将棋にも導入されています。
「味方の駒が縦に並ぶと、上の駒の利きは下の駒の利きになる」というルールです。

初形に戻って、「安南ばか詰」として考え直します。

初手は安南ルールを活かした55玉が正解です。

攻方54歩・55玉が縦に並んでいるので、攻方55歩が玉の利きに変わっています。
従って、受方43玉に対して王手が掛かっています。

対して受方玉は逃げるしかありません。
受方玉は最終的に最も狭い11の地点を目指すのが有力でしょう。
そうすると、2手目32玉と指してみたくなります。

ただ、攻方は攻方歩・玉の両方を動かしていきたいので、それをやるには都合の悪い形です。

代えて2手目は42玉が正解。

3手目43歩不成と指せるのが違いです。

歩は玉の利きに変わっていたので、斜め前に動かせるわけです。
ただ、43の地点に動かした後は縦の並びが解消されて、攻方歩は本来の利きに戻っています。

ところで、3手目が歩”不成”なのは何故でしょうか。
飛・角・歩は成ると単純に利きが増えるので、十中八九成った方が得です。
本将棋や普通の詰将棋で飛・角・歩が成らない方が得になるのは、打歩詰が関係する場合だけです。
ただ、ばか詰だと異なる意味付けで飛・角・歩の不成が生じ、本作の歩不成も打歩詰と無関係です。

4手目は32玉。

受方にこの手を指させるために、攻方は利きの少ない歩の状態を維持したわけです。
これで5手目44玉と動かせます。

攻方43歩・44玉が縦に並んで、攻方43歩が再び玉の利きに変わりました。

以下、31玉、32歩不成、21玉、33玉、11玉と同様の手順を繰り返します。

受方玉を11の地点に追いやりながら、攻方は攻方歩・玉の両方を進めることができました。
これで11手目22歩成と指せば詰上りです。

本作は攻方が歩と玉を交互に動かす楽しい手順。
王手義務があるのに攻方玉がこれだけ動けるのも、安南ルールのおかげです。
打歩詰と無関係な歩不成が出るのも協力詰らしい手ですね。
フェアリーらしくも、フェアリーに馴染みのない人も楽しめる作品です。

③ Zoltán Laborczi 作

Sakkélet 1986年

Helpmate in 2, Duplex

ビューアで鑑賞:https://yacpdb.org/#45320

【 Helpmate in n (H#n) 】
黒から指し始め、黒白協力してn手(最短手数)で黒のキングをメイトする。
もしnが半整数なら、白から指し始める。
詰将棋と異なり白にチェックする義務はない。
【 Duplex 】
通常通り解くことに加え、白黒の役割を入れ替えて同じ設定で再度解く。
例えば、「Helpmate in n(nは整数)」で用いられている場合、黒から指し始めて白が黒キングをメイトにする手順と、白から指し始めて黒が白キングをメイトにする手順の双方を求める。

黒先)1.Sxe4 exd4 2.Sd2 Re1#
白先)1.Sxf6 dxe3 2.Sg8 Bg7#
※ナイト(Knight)の棋譜表記は通常「N」ですが、チェス・プロブレムでは「S」と表します。

Helpmateでは白が黒キングをメイトします。
Directmateのような通常のメイト問題では、黒は自身(黒キング)がメイトされないように抵抗します。
一方、Helpmateでは黒は自身(黒キング)がメイトされるように白に協力します。

「Helpmate in 2」と書いてあるのは、最短で2手のメイト手順があることを表しています。
注意したいのが出題図の手番。
チェスの実戦やDirectmateでは白から指し始めますが、Helpmateでは基本的に黒から指し始めます。
正確に言うと、手数が整数(例えば2手)の場合は黒から指し始めます。
手数が半整数(例えば2.5手)のこともあり、その場合は手番がずれて白から指し始めます。

その他の注意点としては、白に黒キングをチェックする義務はありません。
白はチェックしてもよいですが、チェックしない手を指してもよいです。
詰将棋を知っている人にとっては、ここが勘違いしやすい点です。
「Duplex」という問題設定については、後ほど説明することにします。

それでは出題図を再掲します。

黒キングはc1の地点にいて、b1とd1の地点に逃げられる状況です。
白ルークをe1の地点に配置できれば、黒キングがメイトされます。
e8の白ルークをe1まで2手で運ぶ方法はあるでしょうか。

最短経路はe8→e1です。
しかし、e4の白ナイトとe3の白ポーンが邪魔になっています。

この白駒二枚は「白が動かすか」「黒に取らせるか」のどちらかで解決できます。

まずはe3の白ポーンについて考えます。

白がeファイルの外に動かすならexd4。

e3の白ポーンを黒に取らせるならSxe3。

黒に取らせた場合は、Sc4などとeファイルの外に退ける手も必要になります。

そうしないと、e8の白ルークをe1に動かすときに邪魔になってしまいます。
つまり、e3の白ポーンを白が退かすなら白が1手を消費し、黒が消去するなら黒が2手を消費します。

次にe4の白ナイトについて考えます。

e4の白ナイトも白が退かすなら白が1手を消費し、黒が消去するなら黒が2手を消費するように見えます。
しかし、e4の白ナイトは黒キングが逃げられないように、d2に利かせている役割を担っています。
d2に白駒を利かせ直すか、d2を黒駒で埋めるかのどちらかが必要になります。

e4の白ナイトをeファイルの外に動かしてd2に利かせ直すには、Sd6~Sc4が一例です。

しかし、既に白が2手指してしまっています。
e8の白ルークをe1に動かす余裕が白になくなってしまいます。

では、白がSd6などと指し、d2を黒駒で埋める展開を考えてみます。

Re1のメイトを見据えるなら、d2に運ぶ黒駒はe1に利かない駒種でなくてはいけません。
従って、d2に運ぶのは黒ナイトでなければならず、最短はf6の黒ナイトをSe4~Sd2と指す展開です。

これだけで白が1手を消費し、黒が2手を消費しています。
白はRe1も指したいので、e3の白ポーンを消去しようとすると手数超過します。

出題図に戻ります。

ただ、今ので気付いたと思います。
e4の白ナイトはf6の黒ナイトに取らせる方が効率が良いのです。

これで正解手順が概ね見えてきました。
1.Sxe4 ??? 2.Sd2 Re1#となります。
あとは白の1手目でe3の白ポーンをeファイルの外に動かせれば解決します。
前に検討した通り、exd4と指す手があります。

出題図に戻ります。

これで正解手順が判明しました。
正解は1.Sxe4 exd4 2.Sd2 Re1#。

これで解き終わったと言いたいところですが、「Duplex」という問題設定について説明していませんでした。
Duplexは通常通り解くことに加え、白黒の役割を入れ替えて同じ設定で再度解くことを求める問題設定です。
本作は「Helpmate in 2」なので、「黒から指し始めて白が黒キングを2手でメイトにする手順」と、「白から指し始めて黒が白キングを2手でメイトにする手順」の両方を求めます。
前者は先程求めたので、後者の「白から指し始めて黒が白キングを2手でメイトする手順」を考えていきましょう。

出題図を再掲します。

白キングはf8にいます。
周りには黒駒がよく利いていて、白キングに逃げ道はありません。
f5の黒ナイトはe7とg7を塞いでいて、f6の黒ナイトはg8に塞いでいます。
二箇所を抑えているf5の黒ナイトは動かしにくいですが、一箇所にしか抑えていないf6の黒ナイトは比較的動かしやすそうです。
実際にf6の黒ナイトをSh7と動かせば、すぐに白キングにチェックが掛かります。

しかし、g8の地点の利きが外れてしまうので、当然Kg8と逃げられます。

Sh7のメイトを狙うなら、g8の地点に別の黒駒を利かせておくか、白駒で埋めるかのどちらかが必要です。

出題図に戻ります。

2手という手数を考えると、g8の地点に別の黒駒を利かせるのは無理そうです。
g8の地点を白駒で埋めるのは可能でしょうか。

e4の白ナイトをSf6~Sg8と指すしかありません。

ただ、見て分かる通り、手順にf6の黒ナイトが取られてしまいます。
これではf6の黒ナイトによるメイトは無理そうです。

出題図に戻ります。

では、白キングをメイトするには、どの黒駒を使えばよいのでしょうか。
消去法で考えると、b2の黒ビショップしかなさそうです。

Bg7を狙うことになりそうです。
しかし、d4の黒ポーンとf6の黒ナイトが邪魔になっています。

d4の黒ポーンを白駒に取らせるのは手数的に厳しそう。
dxe3と黒が動かすことになります。

黒はBg7を指したいことも考えると、手数的に黒は他の手を指す余裕がありません。
f6の黒ナイトは白駒に取らせるしかないでしょう。

出題図に戻ります。

e4の白ナイトをSxf6と動かすしかなさそうです。

黒が最後にBg7を指せるように、f6の地点に動かした白ナイトはすぐに退かす必要があります。
また、初形に配置されていたf6の黒ナイトを取ってしまったので、g8の地点の利きが外れているのも要注意です。
従って、Sg8と動かして退路を封鎖するのがピッタリの手になります。

出題図に戻ります。

これで正解手順が判明しました。
正解は1.Sf6 dxe3 2.Sg8 Bg7#。

出題図に戻って、二つの手順を並べておさらいします。

黒先)1.Sxe4 exd4 2.Sd2 Re1#
白先)1.Sxf6 dxe3 2.Sg8 Bg7#

本作は「何の駒で何の駒を取っているか」に着目すると、面白い関係性が見えてきます。
一つ目はe4の白ナイトとf6の黒ナイトの関係。
一方の解では黒ナイトが白ナイトを取り、もう一方の解では白ナイトが黒ナイトを取るいったように、「取る」「取られる」の関係性が逆転しています。
二つ目はe3の白ポーンとd4の黒ポーンの関係。
一方の解では白ポーンが黒ポーンを取り、もう一方の解では黒ポーンが白ポーンを取っていて、やはり関係性が逆転しています。
「取る」「取られる」の関係性が入れ替わることをReciprocal captureと呼びます。
本作はDuplexを利用することで、このテーマを明快かつ効果的に表現しています。

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