めいまが

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン

めいまが 2023年11月号

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン「めいまが」です。

1.超短編双玉詰将棋コンクール 結果発表②

担当:駒井めい

本誌2023年8月号で超短編双玉詰将棋コンクールの出題を行いました。
その後、普通詰将棋部門の結果発表を2023年10月号で行いました。
今回が最終回で、ビギナー部門及び協力詰部門の結果発表を行います。

・出題:めいまが 2023年8月号 - めいまが
・結果発表①(普通詰将棋部門 ):めいまが 2023年10月号 - めいまが

1.1 ビギナー部門 結果発表

ビギナー部門は2作(第1番~第2番)を出題しました。

〔 解答者 〕
解答者は7名で、全員が全問正解でした。

ルービックキューブ
・たくぼん
・占魚亭
・久保紀貴
・negitarou
・風みどり
springs
※敬称略

〔 順位 〕
解答者には各作品に1~5の五段階評価(5が最も良い評価)をお願いしました。
評点の平均値を算出し(少数第三位以下切り捨て)、順位を決定しました。

1位 4.14点 第2番 羽毛布団作
2位 3.14点 第1番 堺健太郎

第1番 堺健太郎

詰将棋

〔 解答成績 〕
正解者数:7名、誤解者数:0名、無解者数:0名

〔 評点 〕
5点:1票、4点:0票、3点:5票、2点:1票、1点:0票
⇒ 平均値:3.14点(2位)

〔 解答 〕
(A)22歩、(イ)同玉、(B)34桂、同銀、31角成 迄5手

(イ) 32玉は44桂、同銀、31角成迄。

(A) 43角成は32桂合以下逃れ。
(B) 14桂は21玉以下逃れ(31角成が指せない)。

〔 作者コメント 〕
作意と2 手目32玉の変化の両方で、同様の桂打により64角をアンピンします。

〔 解説 〕

初手31角成と指せれば受方玉が詰み。
しかし、攻方64角を動かすと、受方74飛の利きが攻方24玉に当たってしまいます。
攻方64角はいわゆるピンされた状態で、初手31角成とは指せません。

攻方52角を活用する初手43角成は良さそうに見えます。
銀も取れて攻めは続きそうです。

2手目32歩合は33桂、22玉、11銀迄で詰みます。

しかし、初手43角成には2手目32桂合と逆王手をされて詰みません。

以下、32同馬、同玉、31桂成と攻めても、43玉と上部に逃げられてしまいます。

初形に戻ります。

攻方64角のピンを解除して(アンピン)、自由に動けるようにする必要がありそうです。

正解は初手22歩。

2手目は22同玉と歩を取るか、32玉とかわすかの二択です。

2手目22同玉は

3手目に34桂と打つのが狙いの一手。

これで攻方64角が動いても、受方74飛の利きが攻方24玉に当たりません。

4手目21玉や32玉は5手目31角成迄。
4手目34同銀にも5手目31角成迄で詰みます。

初手22歩と指した局面に戻ります。

ここでは2手目32玉とかわす展開もあります。

この場合は3手目44桂と打てば解決。

先程と同様に、攻方64角が自由に動けるようになりました。

4手目22玉には5手目31角成迄。
4手目44同銀にも5手目31角成迄で詰みます。

本作はピンされた攻方64角をアンピンする手順。
2手目から分岐して、それぞれ同手数で駒余らずの手順(いわゆる変同)に至るのが特徴です。
2手目22同玉と32玉の手順はどちらも意味合いは同じですが、一路ずれた手順になっています。
この差異を表現するための変同というわけです。

〔 短評 〕
たくぼん
変化によって桂打の場所が変わるのがちょっと目新しい感じです。

negitarou
二手目は、取っても逃げても詰み。
作者予想:堺健太郎

★今回のコンクールでは作者予想は課していなかったのですが、予想してくださった方は短評と一緒に掲載しています。

風みどり
同玉だと34桂・32玉だと44桂というのが狙いでしょうか。

占魚亭
31角成を可能にする手続き。シンプルでいい感じ。

ルービックキューブ
変同は敢えてそうしているのかもしれませんが、どちらかというとマイナス印象でした。
作者予想:堺健太郎

久保紀貴
2手目32玉でも44桂とアンピンして詰むのが面白い。初手43角成が逆王手で逃れるのもよい。
作者予想:堺健太郎

springs
ほぼ同じではあるがアンピン×2。
テーマに沿った紛れ(3手目14桂)があるのがよい。

★残念ながら2位でしたが、あえて変同を利用する意欲的な作品でした。誰もが持っている感覚ではなく、確かな才能を感じました。今後が非常に楽しみです。

第2番 羽毛布団作

詰将棋

〔 解答成績 〕
正解者数:7名、誤解者数:0名、無解者数:0名

〔 評点 〕
5点:2票、4点:4票、3点:1票、2点:0票、1点:0票
⇒ 平均値:4.14点(1位)

〔 解答 〕
55馬、(イ)同玉、(A)57飛、(ロ)56角合、65金、同飛、44角成 迄7手

(イ) 67玉は58金、76玉、86飛迄。
(ロ) 56他合は44角成迄。
(ロ) 66玉は75角成迄。

(A) 58飛は66玉、75角成、77玉以下逃れ。

〔 解説 〕

初手75角成は一瞬頭をよぎる王手。
しかし、2手目77玉と上部に逃げられて詰みません。

代えて初手55馬と捨てるのが正解。

2手目77玉と逃げる手が防げます。
ただ、2手目は57玉・67玉・76玉と逃げる手があります。
2手目57玉には58金迄。
2手目67玉には58金、76玉、86飛迄。
2手目76玉には86飛、67玉、58金迄。
つまり、2手目に玉が逃げるのは詰んでいます。

最善は2手目55同玉と馬を取る手です。

攻方47香の利きを活かして、3手目44角成は一見良さそうです。

しかし、4手目56玉と上部に逃げられて詰みません。

2手目55同玉の局面に戻ります。

攻方は44角成と指す前に、56の地点に封鎖する必要があります。
3手目57飛と飛車を離して打てば、受方に合駒を打たせられます。

4手目66玉は5手目75角成迄で詰みます。

この変化で分かるように、3手目の飛打は57の地点に限定されます。
3手目57飛と打つことで、67玉や77玉と逃げられるのを防いでいます。

従って、4手目は合駒をすることになります。
4手目56歩合には、予定通り5手目44角成迄で詰みます。

しかし、4手目56角合と逆王手をする手があります。
初形では受方に角はありませんでしたが、頭2手で攻方が受方に渡してしまっているのです。

攻方は5手目44角成を指すと、自玉(攻方玉)に掛かった王手を放置することになります。
とにかく攻方玉に掛かった王手を解除する必要があります。

5手目65金と捨てて、6手目同飛と取らせれば解決。

これで7手目44角成が指せて詰上りです。

本作は受方に角を渡して、それを受方に逆用される構成。
単純な逆王手になっていないのが気の利いた表現です。
飛車の限定打も入って、濃密な手順になっています。

〔 短評 〕
風みどり
49銀の配置に不満はあれど、作意の構築はビギナーを脱している。

占魚亭
この1手だが、味のいい初手。以降の展開も双玉らしさがあっていい。

springs
初手と3手目に有力そうな王手があってかなり苦戦した。

negitarou
難しかったです。捨てた角がすぐに合駒で使われるのが、ちょっと面白い。
作者予想:羽毛布団

久保紀貴
初手で角を渡してしまったがゆえに逆王手を食らう。皮肉が効いていて面白い。
作者予想:羽毛布団

たくぼん
ビギナーにしてはレベルが高いですね。初手に馬を捨ててその角を逆王手で打たせる構成は素晴らしいですね。馬を捨てて角合より、角を捨てて角合の方が良い響きなので73の駒は角にしたい気もします。

★初形の攻方73馬を角に変更するか否かは、作品の表現として非常に重要な視点です。
★単純に馬から角に置き換えると、初手55角不成の嫌がらせ不成が生じます。馬になっているのはこれを避けたものでしょう。

ルービックキューブ
限定打と限定合が上手く実現されています。頭2手は改良できそうですね。
作者予想:羽毛布団

★ビギナー部門の1位は羽毛布団氏でした。おめでとうございます。
★羽毛布団氏は詰将棋つくってみた課題25で優秀作に選ばれています。フェアリーの分野でも活躍していて、Fairy TopⅨ2022短編部門1位を受賞しています。今回も新人らしからぬ高い完成度の作品で、文句なしの1位を獲得しました。

1.2 協力詰部門 結果発表

協力詰部門は4作(第9番~第12番)を出題しました。

〔 解答者 〕
解答者数は6名で、全員が全問正解でした。

ルービックキューブ
・たくぼん
・占魚亭
・久保紀貴
・風みどり
springs
※敬称略

〔 順位 〕
解答者には各作品に1~5の五段階評価(5が最も良い評価)をお願いしました。
評点の平均値を算出し(少数第三位以下切り捨て)、順位を決定しました。

1位 4.83点 第12番 馬屋原剛作
2位 3.83点 第10番 駒井めい作
3位 3.60点 第9番 springs
4位 3.50点 第11番 やべっち

【 フェアリールールの説明 】
・協力詰
先後協力して最短手数で受方の玉を詰める。
無駄合の概念はなく、合駒は全て有効。
・受先
受方から指し始める。 
・n 解
解が複数あり、指定された n 個の解を求める出題形式。

第9番 springs

協力詰 4手(受先、2解)※受方持駒なし

〔 解答成績 〕
正解者数:6名、誤解者数:0名、無解者数:0名

〔 評点 〕
5点:1票、4点:2票、3点:1票、2点:1票、1点:0票
⇒ 平均値:3.60点(3位)

〔 解答 〕
1) 57玉、(A)85玉、66銀、77龍 迄4手
2) 79玉、(B)65玉、78龍、57馬 迄4手

(A) 65玉は攻方74龍がピンされて、4手目77龍が指せない。
(B) 85玉は攻方84馬がピンされて、4手目57馬が指せない。

〔 作者コメント 〕
攻方は馬か龍どちらかをself-pinしてしまう状況なので、「57玉、65王」や「79玉、85王」の組合せが詰まないようになっています。
それぞれの解で働いてない駒が多いのが辛いのですが、双玉を活かした構成にはなっていると思います。

〔 解説 〕

このままだと攻方が掛けられる王手は攻方74龍を6筋に動かすくらいです。
攻方84馬が活用できそうになく、攻方は明らかに戦力不足です。
本作は受方の持駒がない上に、受方から指し始める設定。
受方が初手で攻方に駒を渡す展開もなさそう。
攻方74龍・84馬を活用できるようにしたいところです。

2解なので正解手順は2つありますが、一つ目は初手57玉。

攻方75玉を動かせば、攻方84馬で開王手が掛かります。
攻方75玉を7筋から退かせば、攻方74龍を77龍と活用できそうです。

2手目65玉か85玉が有力ですが、どちらが正解でしょうか。
試しに2手目65玉と寄ってみます。

次に攻方は77龍と指してみたいです。
しかし、現状では攻方65玉に受方92角の利きが当たるので指せません。
攻方74龍はピンされて動きが制限されているわけです。

2手目は85玉と逆側に寄るのが正解。

3手目66銀の移動合に、4手目77龍迄で詰上りです。

受方は持駒がないので、5手目67歩などと合駒をして受けられません。
また、5手目77同銀と攻方龍を取ろうとしても、攻方84馬の利きが受方57玉に当たってしまうので指せません。
受方66銀はピンされているわけです。

初形に戻ります。

正解手順はもう一つあります。
二つ目は初手79玉。

攻方75玉を7筋から退かせば、今度は74龍で開王手が掛かるだけでなく、次に攻方84馬を57馬と活用できます。

2手目はやはり65玉か85玉が有力です。
一つ目の解では2手目85玉が正解でしたが、これは攻方84馬がピンされてしまいます。

攻方が57馬と指したくても、受方82香の利きが攻方85玉に当たってしまうので指せません。

2手目は代えて65玉が正解。

3手目78龍の移動合に、4手目57馬迄で詰上りです。

受方は持駒がないので、5手目68歩などと合駒をすることはできません。
受方78龍はピンされているので、5手目68龍と移動合をすることもできません。

本作は攻方龍・馬の活用とピンを主題にした作品。
攻方駒がピンされないように攻方玉の移動先(2手目65玉or85玉)が決まるのですが、ある解では正解であった手が、もう一方の解では紛れとして現れる手順構成になっています。
更に、詰ます駒とピンする駒の関係が、二つの解で入れ替わっています。
二つの解は密接に関係していて、単解では味わえない深みが表現されています。

〔 短評 〕
風みどり
フェアリーは普段解いていないので面白いのかどうかわかりません。

ルービックキューブ
最後は両解とも攻方の駒もピンされているのが美しいです。
作者予想:springs

占魚亭
ODT(かな?)。双方の玉がピンされる地点に移動する所が面白い。

久保紀貴
3手目の対称性がちょっと弱い感じがしてしっくりこない。
作者予想:やべっち

たくぼん
2解のコメントではついつい対比が見事と言ってしまいます。本作ももちろんそうですが、ここまでくると3手目の移動合の大駒と小駒の差異が何とかならないかなと贅沢なことを考えてしまいます。

第10番 駒井めい作

協力詰 5手

〔 解答成績 〕
正解者数:6名、誤解者数:0名、無解者数:0名

〔 評点 〕
5点:1票、4点:3票、3点:2票、2点:0票、1点:0票
⇒ 平均値:3.83点(2位)

〔 解答 〕
46桂、同龍、47馬、55龍、65馬 迄5手

〔 解説 〕

攻方58桂がいなければ、攻方が65馬と指して詰みます。
攻方59香の利きが通っていれば、受方55龍がピンされるためです。

初手46桂と跳ねてみます。

2手目43玉や64玉と逃げるのは残り3手で詰みそうにありません。
2手目46同歩か46同龍と取ることになりそうです。

2手目46同歩はどうでしょうか。

初形から攻方58桂は消去できましたが、45の地点が空いてしまいました。
3手目65馬を指すと、4手目45玉と逃げられて詰んでいません。

2手目46同龍と応じるのはどうでしょうか。

攻方48玉に王手が掛かってしまいます。
勢いで3手目46同馬と龍を取ってみたくなりますが、この展開はどうでしょうか。

攻方は次に65馬と指せなくなったのが問題です。
受方玉が43の地点に逃げるのを残り2手で防げません。

3手目は47馬と指すのが正解。

次に攻方が65馬と指せそうな位置に動いたわけです。
しかし、受方46龍が攻方47馬をピンしているため、このままでは攻方が65馬を指せません。

これは4手目55龍と移動合をすれば解決します。

攻方59香による王手を受けながら、攻方47馬のピンを外せる(アンピン)ので都合の良い手です。
5手目65馬と指して詰上りです。

受方55龍はピンされているので、攻方65馬を取ることはできません。

本作は邪魔な攻方桂を消去する過程で、目まぐるしくピンとアンピンが現れます。
ピンする側だった受方龍が最後はピンされるという展開です。

〔 短評 〕
風みどり
なるほどとは思うが易しすぎる?

久保紀貴
面白い手段での原型消去。
作者予想:馬屋原剛

springs
58桂を消去。爽やか。

占魚亭
58桂がなければ1手詰――を味よく実現。

たくぼん
取れる龍を取らず58桂を消去する楽しい作品。

ルービックキューブ
竜がスイッチバックする間に桂馬が消えていました。
作者予想:駒井めい

第11番 やべっち

協力詰 7手

〔 解答成績 〕
正解者数:6名、誤解者数:0名、無解者数:0名

〔 評点 〕
5点:1票、4点:2票、3点:2票、2点:1票、1点:0票
⇒ 平均値:3.50点(4位)

〔 解答 〕
13角、35飛、同角成、56玉、55飛、47玉、57馬 迄7手

〔 作者コメント 〕
55飛車を受方の駒から攻方の駒へ変換するのが狙いです。

〔 解説 〕

受方46玉はいくつも逃げ道があります。
もっと詰ましやすい場所に追いやりたいところです。
しかし、どこで詰ますかは悩ましいです。
攻方駒は角と玉で、受方玉・攻方玉の位置から考えて、駒を入手することなく7手で詰ますのは難しそうです。
受方64角の利きが通ると、攻方28玉に王手が掛かってしまうのも気になります。
とにかく攻方は角を打って合駒を取る展開にはなりそうです。

初手は13角が正解。

角を離して打つことで受方に合駒を要求します。
後に角を成る手も見せて、如何にも有力な手です。
問題は受方に何を合駒してもらうかと、受方玉をどこでどう詰ますか。
最終形がどうなるか手掛かりに乏しいのですが、試しに2手目47玉と逃げて3手目57角成と進めてみると、意外に受方玉が狭いことに気付きます。

攻方57馬に紐が付いていないので、当然4手目57同玉で詰みません。
4手目57同飛成と受方55飛で取る手もあります。
ただ、受方玉は攻方馬を取らずに逃げることができないので、考えてみる勝ちはあります。
受方55飛の利きをどうにかしつつ、攻方が57角成と指したときに馬に紐が付くようにすることが求められます。

課題が二つあって難しそうですが、初手13角成に2手目35飛の移動合がぴったりの手です。

3手目35同角成と取ることになりますが、次にどうするかがまた悩みどころ。

4手目35同玉と攻方馬を取ってしまう展開は考えづらいのです。
受方46玉を逃げることになるでしょう。
受方が47玉と指して攻方が57馬と指すのは、前述の通り目指したい形ではあります。
すぐに実行するのは焦りすぎで、将来の攻方57馬が取られないように57の地点に攻方駒を利かす手順が必要です。

4手目56玉とかわすのが正解。

攻方28玉に逆王手が掛かるので、この展開は選びづらいでしょう。
しかし、受方飛の利きに対応しながら受方玉を狭い場所に誘導するには、この展開は避けられないのです。

5手目55飛に6手目47玉と進めて解決します。

これで7手目57馬を実行して詰上り。

本作は合駒を入手して詰ますという協力詰では珍しくない手順構成です。
ただ、逆王手と組み合わせているのが巧い工夫でしょう。
本来なら解く際に真っ先に考えたくなる手順ですが、逆王手が絡んでいるせいで選びにくくなっています。
初形の受方55飛が詰上りでは攻方飛に置き換わっているのも洒落ています。

〔 短評 〕
springs
2手目がやりにくい。

風みどり
苦労しました。盤駒を持ち出してやっと解けました。

ルービックキューブ
玉がいるので2手目が勘で当たりました。
作者予想:やべっち

久保紀貴
逆王手を食らってしまってもよいというのが意表を突く。全12作中で一番難しかった。
作者予想:駒井めい

たくぼん
この形で逆王手はないでしょうと思ったがありました。飛打を限定打に出来るし余詰も消せるしいいことずくめですね。

占魚亭
55飛の所属が初形と詰上りとで変化。

★残念ながら協力詰部門で4位でしたが、逆王手の意外性で十分な存在感を示せたと思います。

第12番 馬屋原剛作

協力詰 7手 ※受方持駒なし

〔 解答成績 〕
正解者数:6名、誤解者数:0名、無解者数:0名

〔 評点 〕
5点:5票、4点:1票、3点:0票、2点:0票、1点:0票
⇒ 平均値:4.83点(1位)

〔 解答 〕
33馬、同桂、45金、同桂、68玉、57桂生、45飛 迄7手

〔 作者コメント 〕
普通詰将棋で表現したかった桂の2段跳ねを協力詰で実現しました。
ただ、物足りなかったので桂の3段跳ねにしました。

〔 解説 〕

受方13角がいなければ初手45飛迄で詰み。
実際に初手45飛を指してしまうと、受方13角の利きが攻方57玉に当たってしまいます。
つまり、攻方46飛はピンされています。

受方13角を盤上から消去するか、受方13角を動かして利きを逸らすか、この二つが分かりやすい解決方法でしょう。
しかし、7手でそれは実現できそうにありません。

もし受方に持駒があれば、初手から68玉 57歩と進めて解決できます。

受方13角の利きが受方57歩で遮られているので、3手目45飛と指しても攻方玉に王手が掛かりません。
しかし、本作では受方に持駒はありません。
68玉 57Xの2手を実現するなら、Xは盤上の受方駒を運ぶのが一案です。

ここで初形をもう一度眺めてみます。

特に役割のない受方駒として21桂が挙げられます。
21→33→45→57の経路で三回跳ねれば、都合良く達成できそうです。
この点に気付けると、正解手順が一気に見えてきます。

初手33馬に2手目同桂で一回目の桂跳ね。

3手目45金に4手目同桂で二回目の桂跳ね。

5手目68玉に6手目57桂生で三回目の桂跳ね。

これで7手目に45飛が指せて詰上りです。

本作は受方桂が三連続で跳ねる爽快な作品。
57の地点に受方桂を運ぶというたった一つの目的のために手順が進行します。
まさに解説不要の楽しい作品と言えるでしょう。

〔 短評 〕
風みどり
11番で悩んだ後なのでスッキリ解けてうれしい。

ルービックキューブ
見事な桂の三連跳びでした。
作者予想:馬屋原剛

たくぼん
桂の3段跳ね、最後は不成で13角の筋を塞ぐ超絶構想。恐れ入りました。

久保紀貴
桂を3段跳ねさせる目的がアンピンにあるという点に魅力を感じた。
作者予想:springs

springs
角も金も57に打ったら逆王手で困る。受方持駒制限の積極的な使い方。

★受方桂を57の地点に呼び込む前に、受方は持駒を入手します。それにもかかわらず、我慢強く受方桂を跳ねさせなきゃならない理由がこれです。視覚的に楽しい作品ですが、余詰がなく成立している論理は非常に高度です。

占魚亭
45飛を実現させるための鮮やかな受方桂三段跳ね。お見事!

★協力詰部門の1位は馬屋原剛氏の作品でした。おめでとうございます。
★桂の三段跳ねはもちろん、桂を跳ねさせる目的も非常に明快で、圧倒的な高評価を獲得しました。
★手順を成立させている論理も実にスマートで、作家視点で見ても納得の作品でしょう。

1.3 全部門の総評

占魚亭
いやぁ、皆さん上手い! 無理してでも参加すればよかったなぁ……(と後悔)。

たくぼん
実は双玉が一番苦手です。苦手ながら頑張って解いてみました。レベルが高い印象でした。

2.編集長のおすすめ作品

担当:駒井めい

Abdelaziz Onkoud 作

Problem Paradise 2019年

Helpmate in 2 moves, 2 solutions

出題:Issue 87、結果発表:Issue 89
Archives – Problem Paradise

【 Helpmate in n (H#n) 】
黒から指し始め、黒白協力してn手(最短手数)で黒のキングをメイトする。
もしnが半整数なら、白から指し始める。
詰将棋と異なり白にチェックする義務はない。

1.Qxf1 Qb1 2.Qxf6+ Sxf6#
1.Qxg4 Qa4 2.Qxg3 Sxg3#
※ナイト(Knight)の棋譜表記は通常「N」ですが、チェス・プロブレムでは「S」と表します。

白は敵のキング(黒キング)をメイトするのが目的。
通常のメイト問題(Directmate)では、黒は味方のキング(黒キング)がメイトされないように抵抗します。
Helpmateでは、黒は味方のキング(黒キング)がメイトされるように白に協力します。
白と黒はどちらも黒キングをメイトするのが目的というわけです。

チェスでは通常白から指し始めますが、Helpmateでは基本的に黒から指し始めます。
本作は「Helpmate in 2」なので、黒キングを2手でメイトする手順があります。
つまり、黒→白→黒→白の順番で指して、黒キングをメイトします。
詰将棋と違って白にチェックする義務はないことにもご注意を。

改めて初形を示します。

黒キングをメイトしたいので、黒キングの逃げ道を確認します。
h5の黒キングはg4にしか逃げられないことが分かります。
簡単に捕まりそうですが、黒キングに対してチェックを掛けるのが大変なことに気付きます。

例えば、g4の白ナイトをf6に動かせればチェックが掛かりますが、白ルークが邪魔になっています。

また、f1の白ナイトをg3に動かせればチェックが掛かりますが、白ポーンが邪魔になっています。

白がチェックを掛けたくても、味方駒が邪魔になっているわけです。
邪魔な白駒を黒駒に取ってもらう必要があります。

初形に戻ります。

f6の白ルークを黒に消去させ、g4の白ナイトをf6に動かすことを考えます。
何の黒駒ならf6の白ルークを取れるでしょうか。
2手でメイトするので、黒は駒を2回動かせます。
可能なのはh6の黒ビショップとh3の黒クイーンです。
ただ、h6の黒ビショップを動かすのは、黒キングに新たな逃げ道を与えてしまいます。
f6の白ルークはh3の黒クイーンで取るのが有力でしょう。
h3の黒クイーンを動かすルートはh3→f1→f6に決まります。

具体的な手順を書くと、1.Qxf1 ??? 2.Qxf6 Sxf6となるでしょう。

白の1手目に何を指すたらよいか考えるために、白の1手目をパスした最終図を見てみます。

g6には何の白駒も利いていないので、黒キングはg6に逃げられます。
元々g6にはf6の白ルークが利いていましたが、手順に取られてしまいました。
白の1手目でg6に予め白駒を利かせておく必要があります。

初形から1.Qxf1と指した局面を示します。

ここで白はg6に別の駒を利かせたいわけで、1...Qb1しかありません。

2.Qfx6 Sxf6と進めれば、黒キングがメイトされます。

初形に戻ります。

「2 solutions」なのでもう一つ正解手順があります。
今度はg3の白ポーンを黒に消去させて、f1の白ナイトをg3に動かすことを考えます。
何の黒駒ならg3の白ポーンを取れるでしょうか。
黒は駒を2回動かせるので、g1の黒ナイトやh3の黒クイーンが候補です。
例えばg1の黒ナイトの場合、g3の白ポーンを取るための黒の手順は1.Se2~2.Sxg3となるでしょう。

この後に白は2...Sxg3と指してメイトしたいわけです。

しかし、g3の白ナイトはh3の黒クイーンに取られてメイトになっていません。
黒クイーンがg3に利かないように、何かしらをする余裕は黒にはありません。
白には1手余裕がありますが、解決できそうな手は見当たりません。

初形に戻ります。

g1の黒ナイトでg3の白ポーンを取るのでは上手くいかないことが分かりました。
今検討したことを踏まえると、g3の白ポーンはh3の黒クイーンで取ることになりそうです。
黒は1手目か2手目のどちらかにQxg3を指すだけで十分で、黒には1手余裕があります。

初形から1.Qxg3 Sxg3と進めた局面を見てみます。

黒キングの逃げ道として元々存在していたg4以外に、新たにh4が加わっています。
初形で存在していたg3の白ポーンが消去されたからです。
とにかく黒キングがg4とh4に逃げるのを予め防いでおく必要があります。
白と黒はまだ1回ずつ着手に余裕がありますが、何を指したらよいでしょうか。

初形に戻ります。

白が1...Se5と指せば、g4の地点に利かせることはできます。

あとはh4への逃げ道をどう封鎖するか。
手数的に黒が対処するしかありませんが、1手でh4を埋められるのはh3の黒クイーンだけ。
しかし、h3の黒クイーンは最終的にg3に動かしたいのでダメです。
g4に白駒を利かせて、h4は黒駒で封鎖する展開では上手くいきません。

初形に戻ります。

では、g4とh4の両方に白駒を利かせるのは可能でしょうか。
直線的な利きを持つa2の白クイーンを活用してみます。
白が1...Qa4と指してみます。

a4の白クイーンは本来ならg4とh4の両方に利くはずです。
しかし、g4の白ナイトが利きを遮っています。
a4の白クイーンはg4には利いていますが、h4には利いていないわけです。
h3の黒クイーンにg3の白ポーンだけでなく、g4の白ナイトも取ってもらえば解決しそうです。

これで手順が確定しました。

初形に戻ります。

正解手順は1.Qxg4 Qa4 2.Qxg3 Sxg3#。

初形に戻ってもう一つの正解手順も振り返っておきます。

正解手順は1.Qxf1 Qb1 2.Qxf6+ Sxf6#。

本作は黒クイーンが白駒を二枚取り、最後にその黒クイーンが白ナイトに取られる手順構成です。
f1の白ナイトが取られる手順ではg4の白ナイトを動かしてメイトし、g4の白ナイトが取られる手順ではf1の白ナイトを動かしてメイトします。
取られる駒とメイトする駒が二つの手順で入れ替わっています。
複数の手順に対照性を持たせて一つの狙いを表現する手法は、チェス・プロブレムでしばしば用いられます。
まさにその模範と言える作りになっています。

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