めいまが

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン

めいまが 2024年2月号

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン「めいまが」です。

1.編集長のおすすめ作品

担当:駒井めい

springs

詰将棋メーカー 2023年9月5日
詰将棋 3手

出題・解答:two by two | springs | 詰将棋メーカー

57飛、同馬、54金 迄3手
57飛、64玉、63金 迄3手
57飛、同龍、54銀成 迄3手
57飛、44玉、34銀成 迄3手

攻方43銀を動かせば、受方48龍の利きが攻方42玉に当たります。
攻方53金を動かせば、受方75馬の利きが攻方42玉に当たります。
攻方43銀・53金は身動きが取れない、いわゆるピンされた状態です。
受方48龍あるいは75馬の利きを逸らすか遮れれば、攻方43銀・53金を活用できるようになります。

例えば、初形から受方75馬がいなくなると、

攻方が54金と指して詰みます。

初形から受方48龍がいなくなると、

攻方が54銀成と指して詰みます。

初形に戻ります。

受方48龍あるいは75馬の利きを逸らす方法を考えるのが分かりやすそうです。

正解は初手57飛。

57の地点は受方48龍・75馬の両方が利いている焦点。

2手目57同馬なら、

攻方53金が自由に動けるようになって、3手目54金迄で詰上り。

2手目57同龍なら、

攻方43銀が自由に動けるようになって、3手目54銀成迄で詰上り。

初手57飛と指した局面に戻ります。

気になるのは2手目44玉や64玉とかわす手。

2手目64玉はどうでしょうか。

受方75馬の利きは受方64玉で遮られています。
攻方53金が自由に動けるようになりました。
3手目63金迄で詰上り。

2手目44玉はどうでしょうか。

今度は受方48龍の利きが受方44玉で遮られています。
攻方43銀が自由に動けるようになりました。
3手目34銀成迄で詰上り。

初手57飛と指した局面に戻ります。

2手目56歩などと合駒をするのも気になりますが、

3手目56同飛と取ります。

4手目は44玉か64玉と逃げるしかなく、作意手順に合流します。
つまり、2手目56歩は無駄合と扱われます。

初形に戻って手順を振り返ります。

57飛、同馬、54金 迄3手
57飛、64玉、63金 迄3手
57飛、同龍、54銀成 迄3手
57飛、44玉、34銀成 迄3手

本作は4つの手順に分岐するのが特徴です。
方針としてピンされた2つの駒(攻方43銀・53金)のどちらかを自由に動けるようにします。
そこからピンしている駒(受方48龍・75馬)の利きを逸らすか(2手目57同龍・57同馬)、利きを遮るか(2手目44玉・64玉)かの分岐があります。
つまり、4つの手順は互いに独立したものではなく、2×2のマトリクス構造として密接に関係しています。

このようなマトリクス構造は、チェス・プロブレムではしばしば用いられます。
詰将棋では「1つの作意手順をどのように表現するか」という価値観で発展したきたため、歴史的に見てかなり異なる価値観です。
今のところごく少数の作者しか取り組んでいないマイナー分野ではありますが、今後どのように発展していくか興味深いところです。

② 上谷直希 作

Web Fairy Paradise 2015年5月
禁欲詰 9手

出題:WFP第83号 第73回WFP作品展 73-1
結果:WFP第86号 第73回WFP作品展結果 73-1
ビューアで鑑賞:http://k7ro.sakura.ne.jp/jTMLView/TMLView.html?../wfp/wfp73-1.xml
作者解説記事:欲を出さないと面白い? - フェアリー時々詰将棋

【禁欲】
駒を取らない手を優先して着手を選ぶ。 

34香、33金、同香生、32飛、22金、41玉、
52金、同飛、31金 迄9手

例えば初手32金のように攻方23金を不用意に動かせば、受方13飛の利きが攻方43玉に当たってしまいます。
つまり、攻方23金は自由に動けない状態です。

普通の詰将棋なら初手33香とすれば詰みます。

これなら攻方が22金や32金と指しても、受方13飛の利きが攻方43玉に当たりません。

例えば2手目33同角なら

3手目32金迄で詰みます。

問題は2手目32歩などと合駒をされたときです。

攻方には王手義務があるので、3手目に攻方が指せる手は22金・32同金・32同香成。
普通の詰将棋なら3手目に32同金か32同香成を指して詰みです。
ただ、本作には「禁欲」という変則ルールが付与されています。
禁欲は「駒を取らない手を優先して着手を選ぶ」という変則ルールです。

ここで攻方が指せる手は前述の通り22金・32同金・32同香成です。
「駒を取らない手を優先して着手を選ぶ」というルールがあるので、3手目は駒取りではない22金を優先して選ぶことになります。

この王手を解除するには、4手目22同玉・41玉のどちらかを選ぶことになります。
禁欲ルールは受方の着手にも適用されるので、4手目は駒取りではない41玉を選びます。

5手目で王手になる手は31金か32金のどちらかです。
禁欲ルールの影響で、5手目は駒取りではない31金を選ぶことになります。

6手目で王手を解除するには31同玉しかありません。
この手は駒取りですが、駒取りにならずに指せる手が他にないので、6手目は31同玉を指すことになります。

禁欲は駒を取る手を「なるべく避ける」ルールであって、駒を取る手を「禁止」するルールではないことに注意してください。

こうなっては攻方が王手を掛けられなくなって失敗です。
つまり、初手33香と指してしまうと詰みません。

初形に戻ります。

初手34香と1マス離して打つのが正解です。

2手目21玉なら32香成、11玉、22成香迄で詰み。
2手目41玉なら32香成迄で詰み。

2手目32歩は大丈夫なのでしょうか。

初手33香のときは、ここで攻方が3手目22金と指すことになってダメでした。
初手34香を選ぶと、3手目22金と指せません。
3手目22金と指してしまうと、受方13飛の利きが攻方43玉に当たってしまいます。

王手を掛けるには、3手目32同香成か32同香不成しかありません。
どちらも駒取りですが、駒取りにならずに指せる手がないのでどちらを選んでもよいです。
3手目32同香成と指して詰みです。

初手34香は攻方23金を不自由なままにしておくのが目的。
禁欲ルールの制約を回避する意味があります。

初手34香と指した局面に戻ります。

2手目32歩では受けになっていないので、受方に何か別の受けがないか考えてみます。
攻方23金が不自由なままなのは、攻方にとって得だと分かりました。

2手目33歩と中合をするのはどうでしょう。

受方としては3手目33同香としてほしいです。
しかし、3手目32金と駒取りではない手を指して詰みます。

初手34香と指した局面に戻ります。

2手目33飛か33金と逆王手をするのはどうでしょうか。

試しに2手目33飛と強い駒を打った展開を見てみます。

攻方玉に掛けられた王手を解除しながら受方玉に王手を掛けるには、3手目33同香不成と指すしかありません。

以下32歩、22金、41玉と進みます。

初手33香を選んだときとの違いは、攻方の持駒に飛車があることです。
攻方の持駒に飛車がないときは、7手目41金と指すしかありませんでした。
この場合は7手目41飛と指せて詰みます。

もし受方32歩が32飛だったら、7手目41飛に同飛と取れて詰みません。
しかし、4手目32歩に代えて32飛と打つのは、3枚目の飛車を打つことになるので不可能です。

初手34香と指した局面に戻ります。

ここで2手目33飛と2枚目の飛車を打ってしまうからダメなのです。
2手目33金とするのが正解。

3手目はやはり33同香不成とするしかありません。

受方は飛車を温存したことで、4手目32飛と指せるのが違いです。

5手目22金に6手目41玉と進みます。

ここで7手目31金打としても

8手目31同飛と取られます。

普通の詰将棋なら9手目31同金と飛車を取って詰みます。
禁欲ルールがあるので、9手目は32金と指すことになります。

10手目32同飛で、攻方は王手を掛ける手段がなくなって失敗です。

6手目41玉と指した局面に戻ります。

7手目41金打は上手くいきませんでした。
代えて7手目52金と打つのが正解です。

この王手を解除するには、8手目52同飛と取るしかありません。

攻方香の利きが再度通ったことを活かして、9手目31金と指して詰上りです。

これで本作が解けたわけですが、初手34香に代えて35香などと更に離して打っても良さそうに見えます。

2手目33金なら作意に合流しますが、ここでは2手目34角という妙手があります。

逆王手が掛かっているので、3手目34同香とするしかありません。

作意手順に合流したように見えますが、攻方の持駒に角が加わっているのが違いです。

4手目32飛と受けるのが最善。

禁欲ルールの影響で5手目32同香成ではなく、5手目22角などの駒取りにならない手を指すことになります。

受方が攻方にわざと角を渡したのはこのためだったのです。
以下41玉、31角成、同飛、32香成、同飛と進めます。

攻方に王手を掛ける手段がなくなって失敗です。
つまり、初手35香と離して打つのは、受方が攻方に駒を渡すという禁欲ルールに起因する独特な受けによって逃れるのです。

初形に戻って手順を振り返ります。

34香、33金、同香生、32飛、22金、41玉、
52金、同飛、31金 迄9手

本作は禁欲ルールが付与された詰将棋で、禁欲は着手に制限を与えるルール。
攻方金を不自由なままにしておく目的で、香の限定打が成立するのが見所です。

着手に制限を与えるルールは本将棋や普通の詰将棋でも見られ、例えば打歩詰などの禁手が該当します。
これによって受方を打歩詰に誘導する「打歩詰誘致」など、高級手筋が生まれました。
着手に制限を与える変則ルールを付与することで、新奇な手筋が生まれる可能性があり、本作はその一例と言えます。

本作自体も面白いですが、発展性を考えても大変興味深い作品です。

③ Árpád Földeák 作

Christmas Card 1950年

Helpmate in 3

ビューアで鑑賞:https://www.yacpdb.org/#202163

【 Helpmate in n (H#n) 】
黒から指し始め、黒白協力してn手(最短手数)で黒のキングをメイトする。
もしnが半整数なら、白から指し始める。
詰将棋と異なり白にチェックする義務はない。

1.a1=Q+ Ke2 2.Qe5+ Kf1 3.Qb5 Rxb3#

白の目的は黒キングのメイトです。
Directmateなど通常のメイト問題では、黒がメイトされないように抵抗します。
しかし、Helpmateでは黒がメイトされるように白に協力します。
つまり、白も黒も黒キングのメイトが目的です。

白はチェックしない手も指せるのが、詰将棋と異なるのでご注意を。
また、チェスは通常白から指し始めますが、Helpmateでは基本的に黒から指し始めます。

初形を再掲します。

白としては最後にRxb3と指すのが有力です。

しかし、すぐに実行してもKg2と逃げられます。

初形に戻ります。

黒キングがKg2と逃げられるのを予め防いでおく必要があります。
1...Ke1/Ke2~2...Kf1と白キングをg2に利かせた後なら、3...Rxb3で黒キングがメイトされます。

黒は何もする必要がなく、3手の手待ちをすればよいことが分かります。

初形に戻ります。

動かせる黒駒はa2の黒ポーン・h2の黒ポーン・h3の黒キングです。

例えば1.Kg2~2.Kh3と黒キングを往復させれば、黒は2手消費できます。
1.Kg2 Ke1 2.Kh3 Kf1と進めた局面を示します。

黒がもう1手手待ちできれば、白がRxb3と指して黒キングがメイトされます。
h2の黒ポーンを動かすのは、黒キングの逃げ道ができてしまうのでダメです。

a2の黒ポーンを動かすしかなさそうですが、プロモーションをしなければなりません。
3.a1=Q/Rは白キングにチェックが掛かって、3...Rxb3が指せません。

代えて3.a1=Sは
(ナイト(Knight)の棋譜表記は通常「N」ですが、チェス・プロブレムでは「S」と表します。)

3...Rxb3に4.Sxb3と取れるのでメイトになっていません。

代えて3.a1=Bとしても

3...Rxb3に4.Bc3があって、これもメイトになっていません。

黒が2手の手待ちするのは簡単ですが、3手の手待ちするのが難しいのです。

初形に戻ります。

正解は1.a1=Q。

a1の黒クイーンで白キングにチェックが掛かっています。
黒が協力しているようには到底思えません。
一応白は予定通り1...Ke2と指せます。

黒は2.Qe5とするのが継続手。

はたまた黒クイーンで白キングにチェックが掛かっています。
ただ、白は予定通り2...Kf1が指せます。

次に白は3...Rxb3を指したいです。
しかし、黒クイーンが利きが邪魔になっています。
3.Qb5と指して黒クイーンを邪魔にならない場所に追いやります。

白が3...Rxb3と指せば、黒キングがメイトされます。

黒は到底手待ちをしているようには見えませんでしたが、上手く3手を消費することに成功しました。

初形に戻って手順を振り返ります。

1.a1=Q+ Ke2 2.Qe5+ Kf1 3.Qb5 Rxb3#

本作は黒がどのように3手の手待ちをするかがポイント。
強力な黒クイーンを生成して、白キングに二連続でチェックを掛けます。
黒が白に協力しているとは思えない手順ですね。
最終的に黒クイーンを邪魔にならない場所に収めることで、全体で見ると手待ちをしたことと同じ意味になります。

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