めいまが

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン

めいまが 2023年3月号

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン「めいまが」です。

1.編集長のおすすめ作品

担当:駒井めい

① 伊藤正 作
詰パラ 1975年6月
詰将棋 5手

37香、19玉、36香、29玉、28龍 迄5手

初形の攻方38香・58龍が開王手できる形。
王手をかけるには攻方38香を動かして開王手をするしかありません。
この香はどこに動かしたらよいのでしょうか。
思い切って初手31香成と指してみます。

2手目28歩合は3手目同龍迄。
2手目17玉や29玉も3手目28龍迄。
簡単に詰みそうですが、厄介なのは2手目27玉。

以下28龍 36玉 37龍 45玉のように、龍で追って玉に逃げられてしまいます。

初形に話を戻します。

代えて初手37香とするのが解決策。

攻方46角の利きを遮ってしまうので、一見すると最も有り得なさそうな選択肢に思えます。
2手目27玉には今度は3手目38龍迄で詰みます。

攻方香が利いているために、4手目36玉と逃げる手が消えています。

初手37香と指した局面に話を戻します。

2手目は代えて19玉とするのが最善。

攻方が自ら角の利きを遮ってしまったことで生じた手です。

3手目49龍としても全然詰みません。
攻方37香を動かして第2の開王手をして、角と龍で詰ますことを狙うのが有力そうです。
今度はどこに香を移動させたらよいでしょうか。

3手目31香成は単純に4手目46飛と根本の角を取られて詰みません。

2手目19玉とした局面に戻ります。

3手目は代えて36香と受方16飛の利きを遮るのが正解。

4手目28歩合は5手目同龍迄で5手駒余りの詰み。
4手目29玉に5手目28龍迄で詰め上がりです。

もう一度初形に戻って手順をおさらいします。

正解手順は37香 19玉 36香 29玉 28龍迄5手。
攻方38香を37香~36香と1マスずつ動かしていきます。
初手は37香ではなく36香とすると、前述したように2手目27玉で捕まりません。

香を1マスずつ動かす味が良く、その意味が作意に現れていないので、不思議な感触を与えます。
初手37香は自ら角の利きを遮ってしまう手で、玉に新たな逃げ道を与える手になっているのも、初手の意外性を高めています。

② 山路大輔 作
WFP 2017年3月
マドラシ協力詰 5手

出題:WFP第105号(2017年3月号)
結果発表:WFP第107号(2017年5月号)
作者ブログ:「教材に使えるフェアリー作品展」投稿作品 - Pathfinderの詰将棋

【 マドラシ 】
同種の敵駒の利きに入ると、利きがなくなる。
ただし、玉は除く。
【 協力詰 】
先後協力して最短手数で受方の玉を詰める。
無駄合の概念はなく、合駒は全て有効。

27角、49角、38歩、27桂不成、37歩 迄5手

初手37歩と打てれば詰みますが、これは打歩詰なので指せません。

本作は協力詰なので受方が詰みに協力してくれます。
普通の詰将棋よりは詰ましやすいはずですが、5手でどう詰ましたらよいでしょうか。

初形に話を戻します。

例えば、初手から58角 47金 同角 同桂不成 37金迄の手順はどうでしょう。

本作にはマドラシルールがあるので、6手目38金と受ける手があります。

攻方37金は受方38金の利きに入っています。
マドラシの効果で攻方37金は利きを失うため、王手が解除されています。

マドラシによる利きの無効化を受けないために、やはり最終手37歩は有力そうです。

歩は前1マスしか利きを持たないため、受方がマドラシによる利きの無効化をする余地がありません。
最終手37歩を実現するために38の地点に歩を設置して、突歩詰の形を作るのが本作の課題です。
そうは言っても、攻方には王手義務があります。
王手をしながら攻方38歩を設置するのは簡単ではなさそうです。

この難題もマドラシの効果で解決できます。
初形に話を戻します。

初手27角に2手目49角と受けます。

攻方27角は受方49角の利きに入っているので、利きを失っている状態です。

ここで3手目38歩と打ちます。

攻方38歩で王手をかけたわけではありません。
歩を打ったことで受方49角の利きが遮られました。
これにより攻方27角の利きが復活して、攻方27角による王手がかかっています。

4手目同桂不成と攻方角を取って受ければ、5手目に待望の37歩が実現して詰め上がりです。

初形に話を戻して、手順をおさらいします。

正解手順は27角 49角 38歩 27桂不成 37歩迄5手。

本作は打歩詰を打開するために、歩を控えて打って突歩詰を狙います。
普通の詰将棋でも作例が多いテーマですが、普通の詰将棋では歩を控えて打つために、玉が動く手順が必ず入ります。
これが悪いわけではありませんが、相当巧く作らないと緩い手になりやすいです。
マドラシを使えば不動玉のまま一連の手順が行えるので、手順の緊張感を保ちやすいわけです。
余分な要素を排除して、テーマが明快に表現されているところに好感が持てます。

③ Romolo Ravarini 作
Scacco! 1982年 1st Prize

Helpmate in 2, b) Remove wPd2

ビューアで鑑賞:https://yacpdb.org/#102474

【 Helpmate in n (H#n) 】
黒から指し始め、黒白協力してn手(最短手数)で黒のキングを詰ます。
もしnが半整数なら、白から指し始める。
詰将棋と異なり白に王手義務はない。

a) 1.Qxf4 Se5 2.Qe4 Sxc6#
b) 1.Qxc4 Bg3 2.Qd4 Be1#
※ナイト(Knight)の棋譜表記は通常「N」ですが、チェス・プロブレムでは「S」と表します。

h4の白ルークやg8の白ビショップは利きが遮られていて活用しにくい状態。
これらの駒を活用したいところです。

1.Qf8などと黒クイーンを適当な場所に退かして、1...Se5~2...Sxc6と白ナイトを展開するのはどうでしょうか。

g8の白ビショップがb3・c4の地点に利くようになって、黒キングの逃げ道はありません。
しかし、3.Bxc6!と白ナイトを取られてしまうのでメイトになっていません。

この黒ビショップの利きをどうにかする必要がありそうです。

初形に話を戻します。

一番単純な方法はh1の黒ビショップを動かしてしまうことです。
ただ、h1の地点は角(かど)なので、黒ビショップが動ける先は限られています。
c6の地点への利きを外すのに、例えば1.Bg2~2.Bh3のように2手かかってしまいます。

これではf7の黒クイーンを動かす余裕がありません。

もっと直接的な方法として、白がh1の黒ビショップを取ってしまうのも考えられます。
例えば1...Kxh1とすれば黒ビショップを取れます。
しかし、白がSe5~Sxc6の2手を指したいことを考えると手数が足りません。

h1の黒ビショップの利きは、手数に余裕がある黒が対処するしかなさそうです。

初形に話を戻します。

黒が1.Qxf4~2.Qe4とするのが解決策。

h1の黒ビショップの利きは、e4の黒クイーンで遮られています。
ただ、クイーンはビショップと同じく斜めの利きを持っています。
当然ながらe4の黒クイーンがc6の地点に利いてしまいます。
これでは何の解決にもなっていないように見えます。
しかし、この間に白が1...Se5~2...Sxc6と指したらどうでしょうか。

この局面で3.Qxc6?と白ナイトを取ることができるでしょうか。
e4の黒クイーンはh4の白ルークでPinされていて身動きが取れません。

初形に戻って手順をおさらいします。

正解手順は1.Qxf4 Se5 2.Qe4 Sxc6#。
Pinを利用することで、黒ビショップの利きを黒クイーンで有効に遮断するという不思議な状況が実現されます。

続いてb図。
b図は今解いた出題図においてd2の白ポーンを取り除いた図です。

問題設定は同様に「Helpmate in 2」です。

先程のa図と同様に1.Qxf4 Se5 2.Qe4 Sxc6と進めてメイトするのか確認しておきます。

a図と違ってd2の白ポーンがいないので、3.Kc3!と逃げられてメイトになっていません。

a図とは別の手順を考える必要があります。

b図の初形に話を戻します。

黒キングがc3の地点に逃げられるのを防ぐ意味で、白が1...Bg3~2...Be1と白ビショップを展開していくのは有力そうです。


ただ、このままだと3.Kb3や3.Bc3と受ける手があってメイトになっていません。

手数に余裕がある黒がこれらの手に対処するしかありません。

初形に話を戻します。

白が1...Bg3~2...Be1とする間に、黒が1.Qxc4~2.Qe4とf7の黒クイーンを動かしたらどうでしょう。

g8の白ビショップの利きを通しながらc4の白ナイトを除去すれば、黒は3.Kb3ができません。

しかし、3.Bc3!とされる手が残っています。

g7の黒ビショップの利きにどう対処すればよいでしょうか。

今白が1...Bg3~2...Be1とする間に、黒が1.Qxc4~2.Qe4としました。
代えて黒の2手目を2.Qd4と指したらどうでしょうか。

g7の黒ビショップの利きをd4の黒クイーンが遮っています。
クイーンはビショップと同じく斜めの利きを持っているので、当然c3の地点に利いてしまいます。
何の解決にもなっていないようですが、d4の黒クイーンはh4の白ルークでPinされているので身動きが取れなくなっているのです。
a図と同様に、Pinを利用することで黒ビショップの利きを黒クイーンで有効に遮断しています。

b図の初形に話を戻して、手順をおさらいします。

正解手順は1.Qxc4 Bg3 2.Qd4 Be1#。
a図の手順も復習しておきましょう。

a図の正解手順は1.Qf4 Se5 2.Qe4 Sxc6#。

黒ビショップの利きを上位互換である黒クイーンで遮断するのは、通常では無意味なことです。
これにPinを組み合わせることで有効化しているのが、両図で見られる共通したテーマです。

両図の違いとしては「取られる駒」と「メイトする駒」が入れ替わっているのが挙げられます。
a図では白ビショップが取られて白ナイトでメイトし、b図では逆に白ナイトが取られて白ビショップでメイトしています。

両図で共通のテーマを描きながらも対比を盛り込むことで、作品全体に統一感と奥深さが生まれています。

2.Orthodox・Helpmate 解付き
2023年2月号出題作の解説

担当:駒井めい

2023年2月号で解付き出題した3作を解説します。
今回は短評がなかったので、作品の解説のみを行います。
2023年4月号に掲載する作品も募集中です。

■ 作品募集
次回の出題は2023年4月号を予定しています。
チェス・プロブレム作品を募集します。
但し、OrthodoxとHelpmateに限らせていただきます。
下記①~⑤の情報を担当の駒井めいまで送付してください。
・Eメールアドレス:meikomaivtsume[at]gmail.com
TwitterのDM:@MeiKomai_Tsume
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① 作者名(ペンネーム可)
② 作品図面
③ ルール、手数、ツインなどの出題条件
④ 作意解
⑤ 狙いなどの作者コメント(省略可)
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締切:2023年3月31日
※ 検討ソフトとしてOliveHelpmate Analyzerなどがあります。

① 川越敏司 作

#2

【 Mate in n (#n) 】
白から指し始め、黒がどのように応じてもn手以内で黒のキングを詰ます。
詰将棋と異なり、白に王手義務はない。

〔 解答 〕
1.Qc3! (threat: 2.Sxc5/Qb4/Qa5#)
 1...b2 2.Sxc5#
 1...Sb7 2.Qb4#
 1...Sxa6/Sd3 2.Qa5#
※ナイト(Knight)の棋譜表記は通常「N」ですが、チェス・プロブレムでは「S」と表します。

〔 作者コメント 〕
bPb3をピンしているwQがkey moveで動いてピンを外すと、今度はピンされていたbPb3が動くことでwQがピンされるというドルトン・テーマ(Dalton theme)を実現しました 。
また、key moveには3つのthreatがあり、黒のデフェンスに対してそれぞれのthreatが実現するメイトが用意されているフレックのテーマ(Fleck theme)にもなっています。

〔 解説 〕
いきなり1.Sxc5+?とするのは、b4の地点の利きが外れて1...Kb4!と逃げられてしまいます。

b4の地点に予め白駒を利かせておく方法を考えてみたいところです。
ただ、1.Qd2?は1...b2+!と白キングにチェックをかけられてしまいます。

初形ではb3の黒ポーンは白クイーンでPinされていて動けませんでした。
白クイーンが動いたことでPinが外れてしまったのです。

このディフェンスを予め防ぐために、代えて1.Qc3!と予め黒ルークのラインに入っておくのが解決策。

対して黒が1...e5などとパスに近い手を指すと、2.Sxc5#とメイトできる他、2.Qb4/Qa5#のメイトもあります。
1.Qc3!は3つのthreatを持った手なのです。

1.Qc3!に対して1...b2は狙い通り白キングにチェックがかかりません。
しかし、白クイーンがPinされてしまうので、2.Qb4/Qa4?と指すことができません。

しかし、2.Sxc5#でメイトできます。

1.Qc3!と指した局面に戻ります。

1...Sb7はc5とa5の二地点に利かす手。

2.Sc5/Qa5?がメイトになりません。
これには2.Qb4#が残された手段でメイトします。

再び1.Qc3!と指した局面に戻って、

1...Sxa6は白ナイトを取りつつb3の地点に利かす手。

2.Sxc5?が消えただけでなく2.Qb4?がメイトになりません。
今度は2.Qa5#でメイトします。

また、1.Qc3!に1...Sd3?はc5とb4の二地点に利かす手。

2.Sxc5/Qb4?がメイトになりませんが、同様に2.Qa5#でメイト。

初形に戻って手順をおさらいします。

1.Qc3! (threat: 2.Sxc5/Qb4/Qa5#)
 1...b2 2.Sxc5#
 1...Sb7 2.Qb4#
 1...Sxa6/Sd3 2.Qa5#

本作はb4の地点に利かせるために、白クイーンを動かして黒ポーンのPinを外さなければいけません。
Unpinされた黒ポーンを動かすディフェンスで、逆に白クイーンがPinされてしまうのが面白い展開。
3つのthreatを完璧に防ぐ手段がなく、黒のディフェンスに対していずれか一つのthreatが実現するvariationも、本作において良いアクセントになっています。

② 川越敏司 作

#3 vv

〔 解答 〕
1.Kg3/Kg4? (threat: 2.Sf6+ Kxh8 3.Sf5#)
 but 1...Kxh8!

1.Sg4? (threat: 2.Sgf6+ Kxh8 3.Kg3/Kg4#)
 but 1...Kg8!

1.Ba1!
 1...d6 2.Rb2 Kh8 3.Rb7#

〔 作者コメント 〕
インディアン問題です。
1...d6の後、黒はステイルメイト状態になります。
これを打開するために、2.Rb2と白は自ら白Bの利きを塞ぎます。
これで黒Kに逃げ場所ができますが、白B+Rバッテリーによるディスカバーメイトとなります。
駒数10個のMeredithです。

〔 解説 〕
h2の白ルークの利きは二枚の白駒(h4の白キング・h6の白ナイト)が遮っています。

h4の白キングとh6の白ナイトのどちらか一方を白ルークのラインから外せば、残ったもう一方の駒を動かして、黒キングにDiscovered checkをかけられます。

1.Kg3/Kg4?と白キングを先に動かしてみます。

対して黒が1...d6とパスのような手を指せば、

2.Sf6+ Kxh8 3.Sf5#でメイト。

しかし、1.Kg3/Kg4?には

1...Kxh8!と先に黒キングを逃げる手があります。

以下2.Sf6には2...Kg7、2.Sf7+には2...Kg8と逃げられ、白は3手でメイトすることができません。

初形に話を戻します。

代えて1.Sg4?と白ナイトを先に動かすのはどうでしょう。

次に2.Sgf6+ Kxh8 3.Kg3/Kg4#を狙った手です。

1.Sg4?とした局面に戻って、

ここで1...Kxh8には

2.Sgf6とすれば、二枚の白ナイトの利きで2...Kg7/Kg8と逃げることができません。

黒は2...d6と指すしかありませんが、3.Kg3/Kg4#でメイトします。

しかし、1.Sg4?はg8の地点の利きを外すことになるので、単純に1...Kg8!と逃げることができます。

この展開も3手でメイトすることができません。

初形に話を戻します。

実はこれらのDiscovered checkは作者が用意した罠。
g7とg8の地点を押さえておく意味で、二枚の白ナイトは動かさない方が白にとって都合が良いのです。

1.Bf6?と白ビショップを取られないようにしながら、h8の地点に利かすのはどうでしょう。

これなら黒キングは簡単に逃げられません。
こうしておけば、例えば2.Re2~3.Re7+と白ルークを展開してメイトできそうです。

しかし、1.Bf6?に1...d6 2.Re2と具体的に手順を進めてみると、上手くいかないことが分かります。

黒キングの逃げ道を全て封鎖してしまったせいで、黒に指せる合法手がなくなってステイルメイトになってしまうのです。
黒キングに逃げられないようにしながら、ステイルメイトも回避しなければなりません。

初形に話を戻します。

正解は1.Ba1!と白ビショップを最遠移動する手。

1...d6に対して2.Re2などでは、先程と同様にステイルメイトになってしまいます。
2.Rb2!と白ビショップの利きを白ルークで遮ってしまうのが好手。

白は自ら駒の働きを悪くしていて、わざと不利なことをしているように見えます。
これは黒キングの逃げ道を制限しながら、ステイルメイトを回避する白の高度な戦略なのです。
これで黒が2...Kh8と指せて、

3.Rb7#とDiscovered checkをかけてメイトできます。

初形に戻って手順をおさらいします。

1.Kg3/Kg4? (threat: 2.Sf6+ Kxh8 3.Sf5#)
 but 1...Kxh8!

1.Sg4? (threat: 2.Sgf6+ Kxh8 3.Kg3/Kg4#)
 but 1...Kg8!

1.Ba1!
 1...d6 2.Rb2 Kh8 3.Rb7#

本作は初形で用意されたDiscovered checkを使わずに、新たにDiscovered checkをかけられる形を用意するという驚きの展開が現れます。
黒キングに逃げられないようにするためですが、その課題を解決しようとすると今度はステイルメイトになる罠が用意されています。
白ビショップの最遠移動という視覚的に派手な手もあって、これが作品全体の狙いを強く引き立てています。

③ Antilles 作

H#2 2 solutions

【 Helpmate in n (H#n) 】
黒から指し始め、黒白協力してn手(最短手数)で黒のキングを詰ます。
もしnが半整数なら、白から指し始める。
詰将棋と異なり白に王手義務はない。

〔 解答 〕
1.Bb4 Sxc4 2.Kxc4 Rxb4#
1.Bc5 Sxe3 2.Kxe3 Bxc5#

〔 作者コメント 〕
各解で、白のsacrifice、黒のDelayed sacrificeがあります。
黒Kが2か所でメイトされるKniest Themeで、白のS/SとR/Bがそれぞれ役割交換します。

〔 解説 〕
初形で黒キングの逃げ道はc5とe5の二地点。

白が1...Rb5と指してc5の地点に利かせてから、2...Bg7+とする展開はどうでしょう。

しかし、3.Rxg7/Rf6/Bf6/Sf6+といったように黒駒の利きが強力です。
2手でこれらのディフェンスを防ぐことは到底できません。

初形に話を戻します。

白ナイトを動かす展開も考えてみたいところですが、やはり上手くいきません。
黒キングを動かさずに2手でメイトするのは、どうやら無理そうです。
黒キングにメイトしやすい場所に動いてもらうしかありません。
しかし、c5とe5の二地点もメイトできそうに見えません。

黒の1手目は一旦置いておいて、1...Sxc4とするのが解決策。

c4の地点にあった黒ポーンが取り除かれたことで、2.Kxc4と黒キングがc4の地点に動くことができます。

これで2...Rb4+としたらどうでしょう。

3.Bxb4と黒ビショップに取られてしまいますし、3.Kc5と黒キングを逃げることもできます。

ただ、e7の黒ビショップを消去するか退かすことさえできれば、解決することが分かります。

初形に話を戻します。

ここで1.Bb4としておけば全て解決。

ここだけ見ると意味が分かりにくい手ですが、将来取られる地点に動かすことで、黒ビショップを消去する狙いです。
以下1...Sxc4 2.Kxc4 Rb4#と進めてメイト。

本作にはもう一つ解があります。
初形に戻ってもう一つの解を考えてみます。

やはり方針は同じで、黒キングをメイトしやすい場所に誘導します。
黒の1手目は一旦置いておいて、1...Sxe3とするのが解決策。

e3の黒ポーンが除去されたことで、2.Kxe3と黒キングがe3の地点に移動できます。

ここでe7の黒ビショップが盤上にいなければ、2...Bc5でメイトします。

これで黒の1手目が分かったでしょうか。
初形に話を戻します。

正解は1.Bc5。

1解目と同じく、黒ビショップを将来取られる地点に動かして消去する狙いです。
以下1...Sxe3 2.Kxe3 Bxc5#と進めてメイト。

初形に戻って手順をおさらいします。

1.Bb4 Sxc4 2.Kxc4 Rxb4#
1.Bc5 Sxe3 2.Kxe3 Bxc5#

本作は白黒双方が捨駒(Sacrifice)をします。
ただ、駒を捨てた後に相手が取るタイミングが異なっています。
白ナイトを捨てる手に対して、黒はすぐに取ります。
一方、黒ビショップを捨てる手に対して、白はすぐに取らず遅れて取ります。

白が駒をタダで捨てるのは不利感がありますが、黒が駒をタダで捨てるのはどうでしょう。
黒が自身のキングをメイトするのに協力するルールなので、黒が捨駒をすること自体に不利感はありません。
「黒の捨駒を白が遅れて取る」という表現にして、捨て方を変えているのがポイントです。

また、白ナイトは二枚あるうちの一方を各解で捨てていますが、残った白ナイトは駒の利きでメイトに関与しています。
また、メイトする駒は一方の解では白ルーク、もう一方の解では白ビショップと異なっているのも気の利いた表現。
白ルークでメイトするときには白ビショップが利きでメイトに関与し、白ビショップでメイトするときには白ルークが利きでメイトに関与しています。
2つの解は同じ狙いを持っていますが、駒の役割が入れ替わって異なる手順が現れています。

本作は捨駒という一つのテーマを、双方が行うことで強調しています。
更に、駒の役割交換で表現することで、テーマを更に奥深くしています。
構成の美しさとテーマの分かりやすさを両立した作品です。

3.掲載記事の募集

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