めいまが

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン

めいまが 2023年1月号

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン「めいまが」です。

【 改訂 】 2023年1月13日
Orthodox・Helpmate解付きの②川越敏司作の作者コメントについて、用語の解釈に誤りがあったため差し替えました。

1.編集長のおすすめ作品

担当:駒井めい

金子清志 作
詰パラ 1988年10月 半期賞受賞
詰将棋 5手

※東京詰将棋工房作品集「KOBO」にも掲載されています(第14番)。
https://tsume-kobo.org/kobo2/index.html

66飛、57玉、55飛、66玉、59飛 迄5手

初手66飛と角の利きで紐を付けた後に、3手目55飛と角の利きを遮ってしまうのが意外な展開です。

代えて3手目56飛打は攻方66飛に付いた紐を外さずに済むので、一見すると有力そうです。

これには4手目48玉と逃げるしかなく、例えば5手目46飛と攻め続けても6手目59玉で捕まりません。

作意の3手目55飛なら4手目48玉には5手目46飛で詰みます。

3手目56飛打は攻方66飛の移動先を遮ってしまうのが問題。
飛車で飛車の動きを制限してしまっているのです。

作意の3手目55飛には4手目66玉と飛車を取ってかわします。

攻方44角・55飛という開王手ができる形ができています。
最後は5手目59飛の最遠移動で詰め上がりです。

代えて5手目46飛/47飛は6手目46玉/47玉と攻方飛を取って逃げられます。

代えて5手目58飛は攻方49角の利きを遮ってしまうので、6手目67玉と逃げられます。

5手目の飛車の移動先は、取られず邪魔にもならない59の地点に定まるわけです。

ところで初手に55飛をいきなり実行するとどうなるのでしょうか。

2手目66玉とされた局面を見てみると、攻方57桂が邪魔で都合の良い飛車の移動先がありません。

この桂がいなければ作意と同様に3手目59飛で詰んでいます。
初形の攻方57桂は邪魔駒だったというわけです。

本作は3手目55飛と角の利きを遮ることで、打ったばかりの飛車を取らせる展開が面白いところ。
飛車で飛車の利きを遮らないように、角の利きを遮る方が選ばれるのが興味深い意味付けです。
最後に飛車の最遠移動とインパクトのある手が入って、切れ味鋭い短編です。

② 竹野龍騎
WFP 2008年11月
Proof game 12手

【 Proof game 】
実戦初形から始めて、指定された手数で問題図に至るような手順を求める。

76歩、34 歩、33 角成、42 飛、43 馬、62 玉、
33 馬、47飛不成、15 馬、42 飛不成、46 歩、51 玉
迄 12手 

指定された手数で実戦初形から問題図に至る手順を求める設定です。
12手なので先手と後手でそれぞれ6手ずつ指せます。
いきなり具体的な手順を考える前に、各駒を動かすのに必要な手数を計算しておきます。

問題図において実戦初形と異なる駒は以下の通りです。
・先手:15馬、46歩、76歩
・後手:34歩 / 持駒歩
実戦初形から最短で駒を移動させることを考えると、
・先手15馬:88角→33角成→15馬(2手)
・先手46歩:47歩→46歩(1手)
・先手76歩:77歩→76歩(1手)
・後手34歩:33歩→34歩(1手)
となるでしょう。
先手が4手・後手が1手で計5手なので、手数にはまだ余裕があります。
ただ、後手の持駒歩が一体どこから来たのかが不明です。
後手の持駒になっているということは、後手が先手の歩を取る手が必要になります。
しかし、問題図において先手の歩は過不足なく9枚存在しています。
むしろ実戦初形の後手43歩が消えているので、何が起こったのかは余計に分かりません。

例えば実戦初形から76歩、34歩、33角成、42飛、43馬と進めてみます。

この後に先手の馬は33馬~15馬と動けばよさそうです。
実戦初形から後手43歩を消去することに成功しましたが、問題図では先手の持駒はありません。
この先手の持駒歩を打って後手に取らせて渡そうにも、何も考えずにやれば二歩になってしまうので上手くいきません。

非常に浮かびづらいですが、この後に後手から47飛不成、X、42飛不成、46歩という手順がどこかで実行できれば解決します。
問題図の先手46歩は47の地点から動かしたのではなく、先手の持駒から打たれたものだったのです。
目から鱗な解決手段ですが、これなら後手は持駒歩を入手しながら、先手は持駒歩を消費できます。

さて、この手順をいつ実行するか。
先程の76歩、34歩、33角成、42飛、43馬と進んだ局面では、攻方馬が邪魔ですぐに47飛不成を実行できません。

ここで後手がパスのような手を指して先手に33馬と指させれば、後手が47飛不成を実行できそうです。

一旦後手62金と動かしてみます。
この金は後に61金と元の位置に戻る手が必要になります。

先手33馬に後手47飛不成!
…としたいところですが、後手47飛不成は後手玉を王手に晒すことになってしまいます。

後手62金に代えて62玉とします。

後手玉の位置を変えてしまえば、先手33馬に後手47飛不成が実行できます。

ここから15馬、42飛不成、46歩、51玉と進めて、12手で問題図と同じ局面を作ることができました。

後手の持駒歩を実現するために、後手玉・飛が往復するのが問題図からすぐには予想ができない展開で非常に面白い作品です。
プルーフゲーム(Proof game)は元々チェス・プロブレムから輸入されたルールですが、本作は将棋らしく持駒の概念を存分に活かした表現になっているのが素晴らしいところです。

③ Erich Anselm Brunner 作
Basler Nachrichten 1933年

Mate in 3

ビューアで鑑賞:https://yacpdb.org/#86362

【 Mate in n (#n) 】
白から指し始め、黒がどのように応じてもn手以内で黒のキングを詰ます。
詰将棋と異なり白に王手義務はない。

1.Sxe3? (threat: 2.Sc2#)
 but 1...Ba4!

1.Bc7! (threat: 2.Ba5#)
 1...Rxc7 2.Sxe3! (threat: 3.Sxg2#)
  2...Bc6 3.Sc2#
  2...Rc2 3.Sxc2#
  2...Rg7 3.Sc2#

※ナイト(Knight)の棋譜表記は通常「N」ですが、チェス・プロブレムでは「S」と表します。

黒キングはd1の白ビショップ・d4の白ルーク・g1の白キングの利きで動くことができません。

d5の白ナイトやf4の白ビショップを展開していけばメイトに持ち込めそうです。

1.Sxe3?と白ナイトを動かしてみます。

これは次に2.Sc2#とメイトする手を狙っています。

こうならないように1.Sxe3?には黒が1...Ba4!と受けます。

黒ビショップがc2の地点に利いているので、構わず2.Sc2を実行すれば2...Bxc2と白ナイトを取られてしまいます。

出題図に話を戻します。

d5の白ナイトを動かすのは上手くいきませんでした。
f4の白ビショップを動かす手を考えてみます。
正解は1.Bc7!。

次に2.Ba5#とメイトする手を狙っています。

しかし、1.Bc7!には1...Rxc7と白ビショップを取ってしまえば、何ともなさそうに見えます。

黒ルークを移動させるのが重要で、今度こそ2.Sxe3!が有効になります。

3.Sxc2?はc2の地点に黒ルークが利いているので失敗。
黒ルークの利きが逸れたおかげで、今度は3.Sxg2#とメイトする手を狙えます。

これを防ぐために、2.Sxe3!に対して黒はg2の地点を守ることになります。

2...Bc6/Rc2/Rg7が考えられますが、いずれも3.S(x)c2#でメイトします。

本作は紛れで成立しなかったSc2#が、白ビショップを囮にする事前工作を入れることで実現するという構成。
紛れと本手順が論理的に繋がっていて、それが明快に実現されている点でも素晴らしい作品です。

2.Orthodox・Helpmate 解付き
2022年12月号出題作の解説・短評

担当:駒井めい

2022年12月号で解付き出題した4作を解説します。
また、短評もいただいたので併せて掲載します。
作品も募集中で、「とりあえず作ってみたよ!」という積極的な投稿は大歓迎です。

■ 作品募集(再掲)
次回の出題は2023年2月号を予定しています。
チェス・プロブレム作品を募集します。
但し、OrthodoxとHelpmateに限らせていただきます。
下記①~⑤の情報を担当の駒井めいまで送付してください。
・Eメールアドレス:meikomaivtsume[at]gmail.com
TwitterのDM:@MeiKomai_Tsume
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① 作者名(ペンネーム可)
② 作品図面
③ ルール、手数、ツインなどの出題条件
④ 作意解
⑤ 狙いなどの作者コメント(省略可)
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締切:2023年1月30日
※ 検討ソフトとしてOliveHelpmate Analyzerなどがあります。

① 川越敏司 作

#2

【 Mate in n (#n) 】
白から指し始め、黒がどのように応じてもn手以内で黒のキングを詰ます。
詰将棋と異なり、白に王手義務はない。

〔 解答 〕
1.Kf1!
1...Kf3 2.Bd1#
1...Kf5 2.Sf2#
1...Kh3 2.Qh4#
1... Kh5 2.Qg5#

〔 作者コメント 〕
初形ではbKにはf5, h3, h5という3つの脱出路(flight square)がありますが、KeyはbKにさらにもう1つ脱出路(f3)を与えるもので(flight giving key)、その結果、Star flightのポジションとなります。
また、bKの移動に対しては異なるメイトが用意されています。
盤面の駒数が7つ以下のミニチュア(miniature)でもあります。

〔 解説 〕
黒の駒はキングしかいないので、白の1手目で何かを指すと黒はキングを動かすしか手がありません。
出題図の手番は白ですが、仮に手番は黒として考えてみます。
黒キングの移動先はf3/h3/h5の三箇所。
1...Kf5には2.Sf2#、1...Kh5には2.Qg5#があります。
1...Kh3が厄介で、2.Qh4と追っても2...Kg2と逃げられてしまいます。

手番を白に戻します。
これを解決する白の1手目が1.Kf1!です。
g2の地点に白キングを利かせることで、2...Kh3には2.Qh4#がメイトになります。

ただ、白キングを動かしてしまったことで、1...Kf3という新たな逃げ道が生まれてしまいます。
これには2.Bd1#があって問題ありません。

黒キングをメイトするために、白がわざと黒キングの逃げ道を増やすのが意外性な一手。
結果として黒キングが斜め四箇所に逃げる変化をもつStar flightsと呼ばれる表現になっています。
少ない駒数ながらしっかりとツボを押さえた作品です。

〔 短評 〕
相藤ジャンク:d2がある理由を考えると、Kf3を考えさせる手として作意がわかりやすかった。最初の問題としてちょうど良い難易度のStar-flight。
羽毛布団:あえて逃げ場所を4方向に増やすのが楽しかったです。チェスでもそっぽにいく手は意外なんですね。

② 川越敏司 作

#2

〔 解答 〕
1.Qb8! (threat: 2.Qf4#)
1...Be5 2.Qb1#
1...e5 2.Qc8#

〔 作者コメント 〕
Keyである1.Qb8は2.Qf4#をねらっていますが、それに対する黒の防御として、どちらも2. Qf4#につながる黒マスのラインをふさぐ1…Be5と1…e5に対して、白は異なるメイト手順を用意しています。
このプロブレムではe5が焦点となっており、1…Be5ではなく1…e5としてあれば2.Qb1+に対して2.e4!とデフェンスでき、1…e5ではなく1…Be5としてあれば2.Qc8+に対して2.e6!とデフェンスできました。
このように、eファイルのbPが初形から可能なの動きのうち半分(e5, e6)がデフェンスにからむ問題にもなっています(half Pickaninny)。
また、1…Be5に対しては2.Qb1#とwQがチェスボードを半周する手順(h8-b8-b1)を用意しました。

〔 解説 〕
出題図で黒キングの逃げ道はありません。
強力な白クイーンを活用する手を考えたいところです。
h8の白クイーンは黒キングがe5の地点に逃げるのを防ぐ役割を担っているので、この点に気を付ける必要があります。

白の1手目は1.Qb8!。
e5の地点に利かせつつ、次に2.Qf4#とメイトする手を狙っています。
これを防ぐには白クイーンのb8~f4ラインを遮断するしかなく、e5の地点に駒を移動させる1...Be5/e5が受けの手段。
重要であったe5の地点が塞がったのを逆用して、1...Be5には2.Qb1#、1...e5には2.Qc8#と白クイーンを再展開してメイトします。

ここで、1...Be5に2.Qc8?とするのは2...e6!、1...e5に2.Qb1?とするのは2...e4!と黒ポーンで守る手があってメイトになっていないことにもご注意を。

白クイーンをダイナミックに動かす作品で、1.Qc8?とできるところを1.Qb8!~2.Qc8#とする遠回りの手順が特に興味深いです。

〔 短評 〕
相藤ジャンク:corner-to-cornerっぽかったけれど途中下車。それでもスケールは大きい。
羽毛布団Queenが反対側まで移動するのが予想外で楽しかったです。

③ 川越敏司 作

#2*

〔 解答 〕
1...Sa6 2.Bd7#

1. Bb7! (threat: 2.Sc4/Sc6/Sd3/Sd7/Sf3/Sf7/Sg4/Sg6#)
1...Sa6 2.Bc6#
1...Sc6 2.Sxc6#
1...Sd7 2.Sxd7#
1...Sf7 2.Sxf7#
1...Sg6 2.Sxg6#
1...Bc4 2.Sxc4#
1...Bd3 2.Sxd3#
1...Bg2 2.Sf3#
1...Bh3 2.Sg4#

〔 作者コメント 〕
白のKeyが3つ以上のthreatをもち、その後のプレーでそれぞれのthreatが別々のメイトになるというフレック・テーマ(Fleck theme)を、wSe5のあらゆる可能な動き(Knight tour)で実現しました。
また、Setでは1. ... Sa6に対して2. Bd7#であるのが、Keyの後では2.Bc6#に変わっています(changed mate)。
bSの動きに対するメイトはすべて取りですが、bBの動きに対するメイトは取り以外のものを含めました(1. ... Bg2 2. Sf3#, 1. ... Bh3 2. Sg4#)。
盤上の駒数が8~12個のメレディス(Meredith)になっています。

〔 解説 〕
e5の白ナイト・g5の白ルークがバッテリーを組んでいて、白ナイトを動かせばチェックがかかる形です。
ただ、白ナイトを動かすとc6の地点への利きが外れて、黒キングに逃げられてしまいます。
1.Bb7!と白ビショップを1マス動かして、a6だけでなくc6の地点にも利かせます。
黒がこれを放置すれば、e5の白ナイトを8方向どこに動かしてもメイトします。
対して黒は白ルークのラインに入って防ごうとしますが、8つのthreatのうちいずれか1つが成立してメイトします。

8つのthreatが実際には1つに限定されるのが面白く、そのthreatがナイトの動きで統一されているのがシンプルながら素晴らしいところです。
また、1...Sa6というディフェンスに対しては、set playと本手順でメイトする手が異なるchanged mateになっています。

〔 短評 〕
相藤ジャンク:本手順を考えている時の「あ、これKnightが8方向全部に跳ぶやつだ」と思った瞬間を3回くらい味わいたい。

④ 川越敏司 作

#3 v

〔 解答 〕
1.Re4? (threat: 2.Re8#)
but 1... Be7!

1.Kb5! (threat: 2.Ra8#)
1...Ba7 2.Re4 Kb8 3.Re8#
1...Kb8 2.Kxc5 Kc8 3.Ra8#

〔 作者コメント 〕
新ドイツ派(new German school)流の論理的チェス・プロブレム(logical chess problem)です。
基礎プラン(Basic plan)はTryにある1.Re4~2.Re8#です。
しかし、このthreatは、黒からの障害(obstacle)1...Be7に阻まれてしまいます(これがlogical try playの基盤になります)。
Keyでは、この障害に対する予防策(safeguarding plan)1.Kb5~2.Ra8#が提示されます。
黒は1...Ba7と応じざるを得ません。
こうしてdecoyされたbBはもはや白の基礎プランを防ぐことができず、今度こそ 2.Re4~3.Re8#が実現します。

〔 解説 〕
出題図で黒キングはb8の地点に逃げ道があります。
利きが遠くまで及ぶ白ルークを活用することになりそうです。
1.Re4?は次に2.Re8#を狙っていますが、1...Be7!と白ルークのラインを遮断されて失敗します。

白は1.Kb5!とするのが解決策。
白ルークの別のラインを通す手で、次に2.Ra8#とメイトする手を狙っています。
1...Ba7と白ルークのa4~a8ラインを遮断すると、今度こそ2.Re4~3.Re8#が間に合います。
1...Kb8と黒キングが逃げる手には、1.Kxc5と黒ビショップを取ることで2.Kc8を強要して3.Ra8#。

白ルークがa4→e4→e8と動く経路だけでは黒ビショップで受けられてしまいます。a4→a8というもう一つの経路を用意することで、黒ビショップを一方の経路に釣り出す構成です。
比較的少ない駒数で論理的な構成を実現した作品です。

〔 短評 〕
相藤ジャンク:右から詰めるかと思いきや、左右両方からだったとは!「り……りょうほーですかあああ~」YES!YES!YES!YES!

3.掲載記事の募集

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内容は論考、作品紹介、入門、詰棋書紹介、宣伝など何でも構いません。
単発・連載どちらでも受け付けます。
字数制限は特にありません。
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