めいまが

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン

めいまが 2022年9月号

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン「めいまが」です。

隔月でチェス・プロブレム(Orthodox, Helpmate)の解付き出題を行っています。
次回の開催は10月号で、作品を募集中です。
詳しくは募集欄をご覧ください。

1.編集長のおすすめ作品

担当:駒井めい

① ほっと 作
「虹色カノン」 第ч回裏短編コンクール 2018年11月9日
詰将棋 7手 b) 21王→84

結果発表:詰将棋考察ノート 第ч回裏短コン「虹色カノン b)21王→84」

a) 63香成、74金、66桂、同飛成、44歩、27角成、43銀 迄7手。
b) 43銀、同角、44歩、27飛成、66桂、同金、63香成 迄7手。

「b) 21王→84」はツイン(Twin)と呼ばれる問題設定です。
出題図をa図としてまず解き、21王を84の地点に移動した図をb図として同様に解け、という意味です。
本作は7手で七種着手。
a)では香→金→桂→飛→歩→角→銀という順番で着手されるのに対し、b)ではa)とは逆順で進行します。
攻方王の位置が変わるだけでこれほどの対照性が現れるのは驚きです。

これらを実現している重要な要素が、2つのバッテリー(開王手が可能な形)と攻方王への逆王手。
攻方27馬・45歩のバッテリーに対しては受方16角と67飛が利いています。
攻方74飛・64香のバッテリーに対しては受方75金と67飛が利いています。
a)では攻方王が21の地点にいますが、これによって攻方27馬・45歩のバッテリーは受方67飛の利きを逸らしてからでないと活用できないようになっています。
44歩の開王手に対して27飛成が逆王手になるからです。
受方67飛の利きを逸らすためには66桂が有力ですが、今度は66の地点に受方75金も利いているのが問題になります。
受方75金の利きを逸らすために63香成として攻方74飛・64香のバッテリーを開くわけです。

同様に、b)では攻方王を84の地点に移動させますが、これによって攻方74飛・64香のバッテリーは受方75金の利きを逸らしてからでないと活用できなくなっています。
63香成の開王手に対して今度は74金が逆王手になります。
受方75金の利きを逸らすためには66桂が有力ですが、a)とは逆に受方67飛も利いているのが問題になります。
以下は割愛しますが、巧みにa)と逆順に進行しているのが分かると思います。

これほど見事な七種着手のツイン作品を見せられると、a)とb)で着手地点が異なっているなど更に高度な対照性を考えてみたくなります。
以前に比べてツイン作品が増えてきた印象で、対照性の質にもっと拘る時代に来ているように感じます。

② 神無七郎 作
Onsite Fairy Mate 2005年1月16日
マドラシばか自殺ステイルメイト 8手

結果発表:http://k7ro.sakura.ne.jp/solve/solution18.html#%E7%AC%AC93%E5%9B%9E
動く盤面で鑑賞:http://k7ro.sakura.ne.jp/jTMLView/TMLView.html?../solve/prob093.xml

【 ばか自殺ステイルメイト(協力自玉ステイルメイト) 】
先後協力して最短手数で攻方をステイルメイト(王手は掛かっていないが合法手のない状態)にする。
【 マドラシ 】
同種の敵駒の利きに入ると利きがなくなる。但し、玉は除く。

23銀、同玉、12銀、32玉、21銀打、31玉、32銀打、23銀 迄8手。

攻方をステイルメイト、つまり王手は掛かっていないけど合法手のない状態にすることを目指します。
ステイルメイトは元々チェスのルールで、本来将棋にはないルールです。
攻方をステイルメイトにするためには、攻方王を動けなくする必要があります。
持駒に銀が4枚あるので、これをどうするかも考えなくてはなりません。
持駒銀4枚を受方玉に取らせたとしても、攻方王の動きが制限できずにステイルメイトになりません。
攻方銀で攻方王の動きを制限しながら、その攻方銀の動きも制限しなければなりません。
救いなのが「協力」と呼ばれるルールが付いていること。
攻方は自分をステイルメイトにすることを目指しますが、受方もそれに協力してくれます。
そうは言っても、そのようなことは可能なのでしょうか?
下にもう一度出題図を示します。

マドラシばか自殺ステイルメイト 8手

実際に作意手順を見てみるのが早いでしょう。
初手から23銀、同玉、12銀、32玉、21銀打、31玉と進めます。

これで攻方王が動けなくなりました。
しかし、2枚の攻方銀は動かすことができますし、持駒に銀が1枚余っているので、ステイルメイトには程遠そうです。
あと2手しかありませんが、解決策はあるのでしょうか。
7手目32銀打とすると攻方21銀が動けなくなりますが、攻方12銀・32銀はまだ動けます。

ここで重要になってくるのがマドラシルールです。
8手目23銀とすると、なんと攻方12銀・32銀がどちらも動けなくなります。
初手で捨てて受方に渡した銀がここで活躍します。

攻方12銀・32銀はなぜ動けなくなったのでしょうか。
これら両方の駒が受方23銀の利きに入っているのにご注目。
マドラシルールにより2枚の攻方銀が同時に利きを失ったのです。

マドラシにより2枚の駒を同時に動けなくするこの手(同時石化)こそが本作の一番の見所。
マドラシらしさが溢れる手です。
ステイルメイトで表現して、最終手に持ってきた点も実に合理的と言えます。

③ William Alfred Whyatt 作
The Problemist 1965年

Helpmate in 2, b) bPe4→e3

The Problemist: BRITISH CHESS PROBLEM SOCIETY(1965年11月号に掲載)

【 Helpmate in n (H#n) 】
黒から指し始め、黒白協力してn手(最短手数)で黒のキングを詰ます。
もしnが半整数なら、白から指し始める。
詰将棋と異なり、白に王手義務はない。

a) Bg5 Rc7 2.Bc1 Rb8#
b) Bg6 Rb7 2.Bb1 Rc8#

↓ a)の解

↓ b)の解

「b) bPe4→e3」は出題図をa図としてまず解き、e4の黒ポーン(Black Pawn)をe3の地点に移動した図をb図として同様に解け、という意味です。
Helpmateは白が攻めて黒キングをメイトするのが目的ですが、黒は自分がメイトされないように抵抗するのではなく、自分がメイトされるように協力します。
詰将棋と違って白に王手義務がないことにご注意を。
チェスは基本的に白が先手ですが、Helpmateでは基本的に黒から指し始めるルールになっています。
2手や3手のように手数が整数の場合は黒から指し始め、2.5手や3.5手のように手数が半整数の場合は白から指し始めるといった感じです。
下にもう一度出題図を示します。


Helpmate in 2, b) Pe4→e3

黒キングをメイトするために、1...Rc7~2...Rb8 あるいは 1...Rb7~2...Rc8 とするのが有力そうです。
しかし、3.Bd8 あるいは 3.Be8 と受けられるのでメイトになっていません。
そもそもの話として、1...Rc7とすると b1の白ルークがe1の黒ルークにPinされてしまうので、2...Rb8と動かすことができません。

1...Rb7とすると今度はc1にいる白ルークがPinされてしまいます。

つまり、一方の駒を動かすともう一方の駒がPinされるというHalf-pinの構造になっています。
同様に、h8の黒キング・h2の白クイーン・h4の黒ビショップ・h5の黒ビショップの配置もHalp-pinです。
これら2つのHalf-pinが本作の主眼であることは明らかです。
具体的にはどうしたらよいのでしょうか。

黒が目指すのは 1.Bg5~2.Bc1 あるいは 1.Bg6~2.Bb1 です。
これで白ルークのPinを解除しながら(Unpin)、残された黒ビショップをPinすることができます。
a)ではe4の黒ポーンが邪魔で 1.Bg6~2.Bb1 とはできないので、1.Bg5~2.Bc1 とすることになります(下図はa)の初形)。

これら黒の手に対応して、白の手は 1...Rc7~2...Rb8# と決まります(下図は2...Rb8#)。

h5の黒ビショップはPinされていて動けないので、3.Be8 とは受けられません。

b)ではe3の黒ポーンが邪魔で 1.Bg5~2.Bc1 ができずに、1.Bg6~2.Bb1 が成立します(下図はb)の初形)。

これら黒の手に対応して、白の手は 1...Rb7~2...Rc8# と白ルークを動かす順番がa)とは変わります(下図は2...Rc8#)。

やはりh4の黒ビショップはPinされていて動けないので、3.Bd8 とは受けられません。

双方のHalf-pinによるPin/Unpinのやり取りが本作の見所です。
二枚の白ルークの役割がa)とb)で入れ替わっていて、同様に二枚の黒ビショップの役割もa)とb)で入れ替わっています。
一方の駒が動けばもう一方の駒がPinされるというHalf-pinの構造を、ツインにすることで余すことなく表現しているわけです。
これを白と黒の双方で行うことでテーマがより強調されています。

2.詰将棋宗教論

執筆者:松田圭市

直感的に詰将棋は宗教じゃないかなと思っていたが、なぜなのか考えてみる。

1.相手を困らせて助ける
詰将棋は問題なので考え所があり、かつ明解な解決策が必要。
これを宗教に例えると、キリスト教の原罪のように相手が困っていると思わせて祈ることで救いを与える。

2.限定に意味がある
限定打に価値があるというのは考えてみると不思議な感じがある。
将棋ファンに説明するのは少し難しい。
これを宗教に例えると、イスラム教徒が豚肉を食べれない理屈に似ている。

3.反社会的な教え
寄せは俗手でという将棋の教えに詰将棋は反している。
これを宗教に例えると、カルト宗教になるかな。

これらが詰将棋と宗教の類似性と私が感じるところだが、金と名誉にあまりならないところが詰将棋と宗教の違いと思う。
逆に言うと金もそんなにかからないし、責任もそんなにないのが詰将棋
人間には何かしら心の拠り所が必要と思うが、そういう意味では詰将棋は比較的安全な宗教なのかもしれない。

3.募集

■ チェス・プロブレム(Orthodox, Helpmate)解付き
隔月でチェス・プロブレムの解付き出題を行っています。
チェス・プロブレム作品を募集します。
但し、OrthodoxとHelpmateに限らせていただきます。
下記①~⑤の情報を編集長・駒井めいまで送付してください。
・Eメールアドレス:meikomaivtsume[at]gmail.com
TwitterのDM:@MeiKomai_Tsume
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① 作者名(ペンネーム可)
② 作品図面
③ ルール、手数、ツインなどの出題条件
④ 作意解
⑤ 狙いなどの作者コメント(省略可)
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2022年10月号掲載分の締切:2022年9月30日
※ 検討ソフトとしてOliveHelpmate Analyzerなどがあります。

■ 掲載記事
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内容は論考、作品紹介、入門、詰棋書紹介、宣伝など何でも構いません。
単発・連載どちらでも受け付けます。
字数制限は特にありません。
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