めいまが

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン

めいまが 2022年10月号

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン「めいまが」です。

1.Orthodox・Helpmate 解付き 出題

担当:駒井めい

作品の投稿がなかったので、自作Helpmateを一作出題します。
解答は同号の最後の方で発表します。
今回から短評を募集する形式に変更したいと思います。
作品の解説と短評掲載は次号(2022年11月号)で行います。

① 駒井めい作

H#2 2 solutions

【 Helpmate in n (H#n) 】
黒から指し始め、黒白協力してn手(最短手数)で黒のキングを詰ます。もしnが半整数なら、白から指し始める。
詰将棋と異なり白に王手義務はない。

■ 短評募集
作品に対する短評を担当の駒井めいまで送付してください。
・Eメールアドレス:meikomaivtsume[at]gmail.com
TwitterのDM:@MeiKomai_Tsume
締切:2022年11月5日

■ 作品募集
次回の出題は2022年12月号を予定しています。
チェス・プロブレム作品を募集します。
但し、OrthodoxとHelpmateに限らせていただきます。
下記①~⑤の情報を担当の駒井めいまで送付してください。
・Eメールアドレス:meikomaivtsume[at]gmail.com
TwitterのDM:@MeiKomai_Tsume
------------------------------------------
① 作者名(ペンネーム可)
② 作品図面
③ ルール、手数、ツインなどの出題条件
④ 作意解
⑤ 狙いなどの作者コメント(省略可)
------------------------------------------
締切:2022年11月30日
※ 検討ソフトとしてOliveHelpmate Analyzerなどがあります。

2.シナトラセレクション 第8回

担当:シナトラ

今回は詰将棋と将棋パズル。
手元に詰パラ8月号があるので、結果稿から目に付いた2作を紹介してみます。

馬屋原剛・上谷直希・久保紀貴
詰パラ 2022年5月

61角、35玉、52飛成、25玉、57龍、35玉、55龍まで7手。

「4手かけて飛を龍に変えた」という事実だけを見ると、単に攻駒を強くしているだけなので面白くありませんが、最短でバッテリーを組み換える派手な手順でそれを実現しているのが主張。
55龍の1手で収束するのは現代的構成と言ったところでしょうか。
打歩に関連しないラインの遮断というテーマは余詰との戦いになりそうなところ、盤上13枚でうまく制御できています。

中村雅哉
詰パラ 2022年5月
「3筋を除く盤上に生駒5枚と玉2枚の計7枚を配置し、残りは全て後手の持駒として、手番がどちらでも45角まで1手で詰んでいる(無駄な合駒での延命などもできない)局面を作れ。」

こちらは最近若島さんのツイートで人気が出ている将棋パズルの作品です。
パズルですので、(棋力が無くとも)論理的思考によって解き明かすことのできる問題が多いというのが魅力。
つまり詰将棋が苦手な方にも解ける可能性があるということです!
本作は将棋パズルの第一人者である中村雅哉の傑作。
ぜひ一度考えてみてください。

 

少しだけ解説します。
生駒5枚とありますがそのうち2枚は角なので、あと3枚しか置けません。
色々試してみると、玉を盤の端に置かなければ明らかに駒が足りないと気付きます。
先手が45角として詰ませる上でもっとも効率が良いのは、19香・18角バッテリーでの両王手のように思います(後手には持駒があるので透かし詰に出来ない点に注意)。
ただ、それが作意だとすると19は飛と香のどちらでもいい非限定になりそうな・・・。

(正解図)

後手が飛2枚を配置して横でバッテリーを組み、これで双方45角が成立します。
飛が品切れたことで19は香に限定されますね!
簡潔な条件から飛び出す、ダイナミックな作意に唖然です。
ちなみに「3筋を除く」の条件は91王の代わりに31王と置き、91飛・81角でバッテリーを作る余詰を消しています。

3.編集長のおすすめ作品

担当:駒井めい

① kisy 作
VTuber創作詰将棋展示会 2021年3月13日
詰将棋 5手

VTuber創作詰将棋展示会|駒井めい|note

66香、72玉、53歩不成、54桂、32龍 迄5手。

初手は66香なのですが、他の地点に打つのはダメで限定打になっています。

打ち場所が限定される意味はすぐには分からないので手順を進めていきます。
受方の持駒は歩だけで6筋には既に受方歩がいるので、2手目63歩合などとは受けられません。
玉を逃げるしかなく、2手目は51玉か72玉。
2手目51玉は31龍、41歩合、42香成迄で5手駒余り。
最善は2手目72玉です。
これに対して3手目は53歩”不成”。

これも意味が分かりづらい手ですが、次の4手目を考えることで明らかになります。
やはり4手目63歩合はできず、玉を逃げることもできません。
王手を解除するのに4手目63香/45龍/54歩合/54桂が候補として挙げられます。
4手目63香と移動合をするのは5手目同香成で5手駒余り。
4手目45龍と根元の角を取るのは5手目同角と両王手をして5手駒余り。

試しに4手目54歩合と逆王手をしてみると、驚くべきことが分かります。

実は攻方王が打歩詰になっているのです。
5手目54同角は受方25龍の利きが攻方王に当たってしまうので指せません。
5手目46玉/56玉は受方37銀/47銀が利いています。
6筋に玉を逃げようとしても今度は受方61香が利いています。
代えて3手目53歩”成”としてしまうと、4手目54歩合に5手目同とと王手を解除する余地が生まれます。
3手目で歩を成らなかったのはこのためです。

ここで初手66香とした意味が分かったでしょうか?
代えて初手65香として以下同じ手順で進めると、4手目54歩合のときに状況が変わります。

5手目66玉と逃げて王手を解除できるので、攻方王は打歩詰になっていません。
初手66香は受方61香の利きを遮らないようにする意味があったわけです。
それなら初手67香でも同じ意味に思えます。
以下72玉、53歩不成と同じ手順で進めたときに、4手目45龍とされて困ります。

攻方78角の利きが攻方67香で遮られているので、5手目45同角ができなくなっています。
従って、初手の香の打ち場所は66の地点に限定されます。
これにより4手目54歩合は禁手のために指すことができなくなります。

話を戻して3手目53歩不成迄の局面。

残すは4手目54桂の移動合しかありません。
これで5手目32龍とすれば詰め上がりです。

本作において重要なのは、攻方王を打歩詰に誘うために香の打ち場所が限定されるというところです。
攻方が自身の王を打歩詰に誘う構想(逆打歩詰誘致)自体は前例があります。
本作の工夫は打歩詰に誘う手段を限定打にして深い意味を持たせたところです。
それは「利きを通しておくために遠打する」というもので、その事実が4手目の局面でようやく明らかになるという構成になっています。
論理的に構築された奥深い手順で、それが5手に凝縮されているところが素晴らしいです。

② 神無太郎 作
WFP 2012年9月
対面取禁協力詰 7手

出題:WFP第51号、結果発表:WFP第53号
動く盤面で鑑賞:http://k7ro.sakura.ne.jp/jTMLView/TMLView.html?../wfp/wfp46-2.xml

【 協力詰 】
先後協力して最短手数で受方の玉を詰める。無駄合の概念はなく、合駒は全て有効。
【 対面 】
敵駒と向かい合ったとき、互いに利きが入れ替わる。 
(補足)
・性能変化により利きが復活し得る位置であれば、一時的に利き所がない駒の存在も許される。つまり、一段目の桂香歩は禁止で、二段目の桂は問題ない。

【 取禁 】
手順中に駒を取る手があってはならない。
(補足)
・駒を取ることによってのみ詰みを回避できる場合は、特別に駒を取ることができる。
・王手の概念は通常通り。

19香、18桂、17香、16桂、15飛、14桂、23飛成 迄7手。

初手から15飛、14桂、23飛成とするのが本作を理解するための重要な手順。

15飛、14桂となった局面では双方の駒が向かい合っています。

対面ルールにより攻方15飛は桂の利きに、受方14桂は飛の利きに変わります。
それによって3手目23飛成と通常では有り得ない駒の動きが実現します。
3手目23飛成迄の局面では向かい合っている駒がないので、攻方23龍と受方14桂は元の利きに戻っています。
ちなみに、取禁ルールは本作では余詰を消すために使われているので、鑑賞する上ではそこまで気にする必要はありません。

さて、3手目23飛成迄の局面は受方玉が詰んでいるように見えます。
実は対面ルールを活かした受けがあります。
4手目22桂とすると攻方龍は桂の利きになって受方玉への王手が解除されます。

斜め前に利かない駒なら王手を解除できるので、4手目22飛/22香/22歩でもよさそうです。
しかし、飛や香はあいにく品切れです。
問題は4手目22歩。

攻方23龍が歩の利きに変わって受方玉への王手が解除されています。
同時に受方22歩が龍の利きになっていることにご注意を。
龍の利きに変わった受方22歩が攻方王に逆王手をかけています。
しかも、攻方王は受けがなく詰んでいるのです。
本当に攻方王は詰んでいるのでしょうか?
取禁ルールがあっても、駒を取って詰みを回避できる場合は特別に駒を取ることができます。
5手目22同龍と歩を取る手がありそうですが、今度は受方21桂が龍の利きに変わってしまってしまいます。

攻方にとってこれは自玉に王手がかかる手なので指せません。
つまり、受方は4手目に22歩と打って攻方王を詰ましたことになります。
攻方王への打歩詰になってしまい、4手目22歩とは指せないのです。
以上より、初手から15飛、14桂、23飛成とする手順において、4手目22桂が唯一の受けであることが分かりました。

ここまで来れば解決方法は分かったでしょうか。
初手から19香、18桂、17香、16桂、15飛、14桂と進めて、桂を品切れにするのが正解。

協力詰なので受方が都合良く協力してくれるのです。
最初のルール説明で述べた通り、対面ルールでは受方18桂は行き所のない駒にはなりません。
これで7手目23飛成とすれば詰め上がりです。

桂は品切れなので8手目22桂と王手を解除する手が消えています。
8手目22歩は攻方王が打歩詰になるので指せません。

本作はいくつかの要素が複雑に絡み合っています。
その中でも攻方王への打歩詰が最も注目すべき点です。
攻方王が打歩詰になる筋は普通詰将棋において既に実現されていますが、盤上に配置する駒の数が膨大になってしまうのが難点です。
対面ルールで表現した本作は非常に駒数が少なく、初形を見ただけでは攻方王への打歩詰の筋が隠されているとは想像できないでしょう。

③ Walter Henneberger 作
Deutsches Wochenschach 1910年

Mate in 3

【 Mate in n (#n) 】
白から指し始め、黒がどのように応じてもn手以内で黒のキングを詰ます。
詰将棋と異なり白に王手義務はない。

1.Kg3! (threat: 2.Sf4 ~ 3.Qe2#)
 1...a1=B 2.f4 exf3 e.p. 3.Qa4#
※ナイト(Knight)の棋譜表記は通常「N」ですが、チェス・プロブレムでは「S」と表します。

↓ 駒を動かして鑑賞したい方はこちら。見にくい場合は「開く」(四角いボタン)をクリックしてlichessの画面でご覧ください。

1.Kg3!はf4の地点を空けて2.Sf4~3.Qe2#を狙った手。

黒はa2のポーンかb1のルークを動かすしか手はありません。
1...Ra1~2...Rb1や1...a1=Q~2...Qxa5などと意味もなく指すのは、2.Sf4~3.Qe2の筋でメイトになります。

2.Sf4~3.Qe2の筋を受ける手はないのでしょうか?

実は一つだけあります。
それが1...a1=Bとa2の黒ポーンをビショップにプロモーションする手です。

プロモーションをする際は最も強いクイーンになるのが普通の感覚です。
あえてビショップを選ぶことで何が変わるのでしょうか?
それは同様に2.Sf4とすると分かります。

当然白は次に3.Qe2とメイトする手を狙っています。
ここで黒が何を指せばよいか考えてみてください。

 

・・・もうお分かりでしょうか?
この局面で黒が指せる合法手はなく、ステイルメイトになってしまいます。
1...a1=Bと指したのは黒が自ら次に指せる合法手をなくして、ステイルメイトに持ち込むためだったのです。
1...a1=Bと指された局面で、白はステイルメイトにならないように別の攻めを考える必要があります。

困ったようですが、白にも手段が残されていました。
それは代えて2.f4と白ポーンを二つ動かす手。

今度は黒が指せる合法手はあるでしょうか?
ここで黒は2...exf3 e.p.とアンパッサン(en passant)でf4の白ポーンを取る余地が生まれます。

これで3.Qa4と白クイーンを先程とは別方向に動かせばメイトです。

ところで、2.f4に代えて2.f3と指すのはどうでしょう。

同様に2...exf3と白ポーンを取ってくれれば3.Qa4でメイトです。
しかし、2.f3としたときにg4の白クイーンの利きが遮られるのが問題です。
2...Rxe1/Rxe3/Rxg2+のようにe2の黒ルークを動かす余地も生まれてしまいます。
こうなっては3手でメイトできないので、2.f4とするしかないのです。

本作は黒からステイルメイトに誘い、それを白が回避するという構成です。
ステイルメイト回避(Stalemate avoidance)はチェス・プロブレムにおいて古典的かつ魅力的なテーマの一つです。
本作はステイルメイトをめぐる攻防が明快に表現されているところが見事です。

4.Orthodox・Helpmate 解付き 解答

① 駒井めい 作

H#2 2 solutions

【 Helpmate in n (H#n) 】
黒から指し始め、黒白協力してn手(最短手数)で黒のキングを詰ます。もしnが半整数なら、白から指し始める。
詰将棋と異なり白に王手義務はない。

〔 解答 〕
1.Rb4 Qh5 2.Rb7 Qe8#
1.Rh7 Qa1 2.Rd7 Qa8#

↓ 1解目

↓ 2解目

■ 短評募集(再掲)
作品に対する短評を担当の駒井めいまで送付してください。
・Eメールアドレス:meikomaivtsume[at]gmail.com
TwitterのDM:@MeiKomai_Tsume
締切:2022年11月5日

■ 作品募集(再掲)
次回の出題は2022年12月号を予定しています。
チェス・プロブレム作品を募集します。
但し、OrthodoxとHelpmateに限らせていただきます。
下記①~⑤の情報を担当の駒井めいまで送付してください。
・Eメールアドレス:meikomaivtsume[at]gmail.com
TwitterのDM:@MeiKomai_Tsume
------------------------------------------
① 作者名(ペンネーム可)
② 作品図面
③ ルール、手数、ツインなどの出題条件
④ 作意解
⑤ 狙いなどの作者コメント(省略可)
------------------------------------------
締切:2022年11月30日
※ 検討ソフトとしてOliveHelpmate Analyzerなどがあります。

5.掲載記事の募集

詰将棋やチェス・プロブレムに関する記事を執筆してくださる方を募集しています。
内容は論考、作品紹介、入門、詰棋書紹介、宣伝など何でも構いません。
単発・連載どちらでも受け付けます。
字数制限は特にありません。
原稿を編集長の駒井めいまで送付してください。
・Eメールアドレス:meikomaivtsume[at]gmail.com
TwitterのDM:@MeiKomai_Tsume