めいまが

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン

めいまが 2022年8月号

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン「めいまが」です。

今月号はチェス・プロブレム(Orthodox, Helpmate)の解付き出題を予定していましたが、作品の投稿がなかったので休載いたします。
次回の開催は10月号で、作品を募集しています。
詳しくは募集欄をご覧ください。

1.編集長のおすすめ作品

① keima82 作
スマホ詰パラ 2020年8月19日
詰将棋 9手

14飛、同歩、24銀、同桂、25飛、同桂、
26銀、同桂、27桂 迄9手。

本作の主張は一本道詰将棋において最終手を除く攻方全着手を捨駒にしたところ。
一本道詰将棋とは変化や紛れが全くない詰将棋のことです。
要は「これしかない」という手が終始続きます。
一本道詰将棋を面白いと感じるかについては正直好みが分かれるでしょう。
本作の工夫は一本道において捨駒を前面に押し出したところ。
捨駒は詰将棋において基本的かつ重要な表現方法です。
詰将棋において捨駒が多用されるのは、駒をただで捨てることで不利感を演出できるからです。
それに変化や紛れを作り込むことで捨駒はより魅力的な手になります。
ところが一本道と組み合わせると驚くほど不利感がなくなります。
捨駒の演出方法として一本道は最悪と言えますが、これこそが作者の狙い。
あえて最悪の組み合わせを作品にしたわけです。
本作が面白いかどうかは置いといて、非常に意欲的な作品と言えます。

② 伊達悠 作
たくぼんの解図日記 2008年6月28日
※WFP第1号(2008年7月19日)にも掲載
Messignyばか詰 5手

WFP第1号:http://www.dokidoki.ne.jp/home2/takuji/WFP1.pdf

【 ばか詰(協力詰)】
先後協力して最短手数で受方の玉を詰める。
【 Messigny 】
盤上に置かれている双方の同種の駒は一手でその位置を交換することができる。
[ 補足 ]
1) 成駒と生駒は別種とみなす。
2) 玉も交換できる。
3) 行き所のない駒や二歩が発生するような交換は禁手。
4) 交換時に駒を裏返すことはできない。
5) 特に注釈がない場合、直前または既出の局面に戻る交換を禁止しない。

92角、83飛、64飛、同飛/83飛、85飛成 迄5手。

Messignyルールによるバッテリー(開王手が可能な形)の構築が本作の見所。
盤上には攻方駒がなく、持駒の飛角で詰ますことになります。
出題図はルールが普通の詰将棋なら詰まない形です。
しかし、本作のルールはばか詰です。
受方は自分の玉が詰まないように抵抗するのではなく、詰むように協力します。
ただ、いくら受方が協力してくれても、ばか詰5手で詰む手順はありません。
そこで無視できないのがMessignyというルール。
これは盤上にある双方の同種駒を交換できるというルールです。
手順を見ていきながら説明していきます。

初手から92角、83飛、64飛と進めます。

受方玉を詰ますために攻方と受方が互いに協力している手順です。
これのどこが協力しているのか?と思うかもしれません。
重要なのは次の4手目。
ここでMessignyルールの登場です。
受方は攻方64飛による王手を解除するために、攻方64飛と受方83飛の位置を交換します(64同飛/83飛)。

なんと攻方92角・83飛のバッテリーができてしまいました。
これで5手目85飛成と両王手をすれば詰め上がりです。

初手92角の最遠打に対して83飛と合駒をした目的は、駒位置交換によってバッテリーを構築するためだったのです。
また、3手目で飛車を打つにしても64飛でなければならないのは、攻方64飛から受方64飛に置き換わった際に玉の退路を封鎖するためです。

Messignyルールを活かしたフェアリー独特のバッテリー構築は見応えがあります。
その狙いを少ない手数・駒数で端的に表現している点が本作の素晴らしいところ。
気持ち良くMessignyの面白さが伝わってきます。

③ Anders Uddgren 作
1st Prize The Problemist 1965年

Helpmate in 2, 2 solutions

The Problemist: BRITISH CHESS PROBLEM SOCIETY(1965年5月号に掲載)

【 Helpmate in n (H#n) 】
黒から指し始め、黒白協力してn手(最短手数)で黒のキングを詰ます。
もしnが半整数なら、白から指し始める。
詰将棋と異なり、白に王手義務はない。

1.Rxd1+ Kxb3 2.Rd3 Sd2#
1.Bxf1+ Ka3 2.Bd3 Be2#
※ナイト(Knight)の棋譜表記は通常「N」ですが、チェス・プロブレムでは「S」と表します。

↓ 1解目

↓ 2解目

詰将棋の協力詰に似たルールですが、いくつか違いがあります。
詰将棋でいう受方は黒、攻方は白に相当しますが、Helpmateでは黒から指し始めるのが基本ルールです。
また、詰将棋と違って白に王手義務はありません。

黒キングをメイトするために、h1の白ルークの利きを通すことを目指します。
しかし、d1の白ビショップやf1の白ナイトがその利きを遮っています。
h1の白ルークの利きが通ったとしても、b5の黒ビショップやd6の黒ルークの利きがh1の白ルークによるメイトを妨げています。
また、黒キングはa2とb2の地点に逃げられます。
h1の白ルークでメイトするには、クリアしなければならない問題がいくつもあるわけです。

黒の1手目は1.Rxd1+/Bxf1+。


白キングにチェックがかかるので黒がメイトに協力しているようには見えません。
しかし、h1の白ルークの利きを遮る駒二枚のうち一枚を取る意味があります。
対して1...Kxb3/Ka3とすれば、チェックを解除しながらa2とb2の地点に利かせられて、黒キングの可動域を狭めることができます。


d1の黒ルークあるいはf1の黒ビショップがh1の白ルークの利きが通るのを邪魔しているので、次にこれらを退かすことを考えます。
それぞれどこに動かしたらよいでしょうか?
正解は2.Rd3/Bd3。
2.Rd3はb5の黒ビショップの利きを遮る意味があり、

2.Bd3はd6の黒ルークの利きを遮る意味があります。

これで2...Sd2/Be2#とすればメイト。
h1の白ルークの利きを通しながら、d3の黒ルークあるいは黒ビショップの利きを遮ります。


本作の注目ポイントはd1の白ビショップ・f1の白ナイト・h1の白ルーク。
d1の白ビショップかf1の白ナイトのどちらかが退いてくれればDiscovered check(将棋でいう開王手)が可能な形、つまりバッテリー(Battery)が出来上がります。
1解目ではd1の白ビショップが取られてf1の白ナイトを動かしてメイトし、2解目ではf1の白ナイトが取られてd1の白ビショップを動かしてメイトするという対照的な構造になっています。
更に注目すべきポイントはb5の黒ビショップとd6の黒ルーク。
1解目ではd6の黒ルークでb5の黒ビショップの利きを遮り、2解目ではb5の黒ビショップでd6の黒ルークの利きを遮るという味方同士で相互に利きを遮断し合う関係になっています。
利きの開閉がテーマで、それを対照的な2つの手順で表現した見事な作品です。

2.シナトラセレクション 第7回

担当:シナトラ

前回に引き続き私のnoteと連動した内容です。
今回は『チェスプロブレム入門』のダイレクトメイトの章から2作紹介します。
読書感想文|シナトラ|note
チェス・プロブレム入門 | つみき書店

DP07
Jorge Karpos and Jorge Lois
Problem Paradise 2004 3rd Honorable Mention

#2 vv

1.Qd7? (2.Qd2#)
1...b6 2.Bd4#  but 1...b5!

1.Qg7? (2.Qg3#)
1...b5 2.Rd3#  but 1...b6!

1.Qc7! (2.Qg3#)
1...b5/b6/Bxe2/Se1 2.Rd3/Bd4/Rxe2/Qf4#

↓ 駒を動かして鑑賞したい方はこちら。見にくい場合は「開く」(四角いボタン)をクリックしてlichessの画面でご覧ください。

1.Qd7は1...b5と返された時に、Qが邪魔でRd3と引けなくなってしまいます。
同様に1.Qg7では1...b6と返されて、Bd4と引けません。
このような、「線駒と同じ動きをする同色の駒が線駒の利きに干渉する」ことを専門用語でHolzhausen interferenceと呼びます。
つまり、本作の狙いは紛れで2種類のホルツハウゼンが登場するというものでした。
明快で、悪くありません。

D15
Yoshikazu Ueda
Problem Paradise 2002 1st Honorable Mention

#6

1.Bd3 Rc8 2.Bg6 Rc5 3.Re3 Rf5 4.Bh7 Rc5 5.Be4 Rf5 6.Bc2#

↓ 駒を動かして鑑賞したい方はこちら。見にくい場合は「開く」(四角いボタン)をクリックしてlichessの画面でご覧ください。

メイトにするために、白Bで左右から攻撃を仕掛ける必要があります。
例えば1.Bc4~2.Bf7とするような筋。これは3.Bb3#と3.Bh5#の2つのメイトを狙っていますね。
しかしそう簡単にはいきません。
黒にはRを白Rのライン上に捨てて、ステイルメイトに持ち込むという手段があります。
正解は初手がBd3、続く2手目がBg6!の限定移動です(2.Bf5としてしまうと後に黒Rから逆王手かかることになる)。
黒はRを取られても良いので顔面受けを連発しますが、最後は4.Be4で左右のどちらへも攻撃可能な形を作って受け無しです。
論理的な構造を持つ難解作ですが、この内容がたったの使用駒7枚で表現されていることに驚きます。
やはり上田さんの実力はプロブレミストの中でも突出しているのではないでしょうか。

3.募集

■ チェス・プロブレム(Orthodox, Helpmate)解付き
隔月でチェス・プロブレムの解付き出題を行っています。
チェス・プロブレム作品を募集します。
但し、OrthodoxとHelpmateに限らせていただきます。
下記①~⑤の情報を編集長・駒井めいまで送付してください。
・Eメールアドレス:meikomaivtsume[at]gmail.com
TwitterのDM:@MeiKomai_Tsume
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① 作者名(ペンネーム可)
② 作品図面
③ ルール、手数、ツインなどの出題条件
④ 作意解
⑤ 狙いなどの作者コメント(省略可)
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2022年10月号掲載分の締切:2022年9月30日
※ 検討ソフトとしてOliveHelpmate Analyzerなどがあります。

■ 掲載記事
詰将棋やチェス・プロブレムに関する記事を執筆してくださる方を募集しています。
内容は論考、作品紹介、入門、詰棋書紹介、宣伝など何でも構いません。
単発・連載どちらでも受け付けます。
字数制限は特にありません。
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