めいまが

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン

めいまが 2022年7月号

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン「めいまが」です。

隔月でチェス・プロブレム(Orthodox, Helpmate)の解付き出題を行っています。
次回の開催は8月号で、作品を募集中です。
これまで連絡先として編集長・駒井めいのTwitterのDMを利用していました。
今月号からEメールアドレスへの連絡も可能としました。
詳しくは募集欄をご覧ください。

1.編集長のおすすめ作品

① 武田裕貴 作
つみき書店 詰将棋つくってみた 課題13 2022年1月1日
詰将棋 5手

詰将棋つくってみたインデックス | つみき書店

23飛、(イ)14玉、15歩、23玉、33飛成 迄5手。
(イ) 35玉は36歩、34玉、33飛成迄。

初手23飛と近付けて打つのは3手目15歩が打歩詰になるのを回避するため。

打歩詰の回避がテーマのように見えるかもしれません。
しかし、本作の面白いところはそこではありません。
変化(イ)が変同なのがポイント。
これは作者が意図して入れたもの。
注目すべきは初手23飛迄の局面における二枚の攻方飛。
2手目14玉の手順では攻方23飛を取らせて最後に攻方35飛を成って詰まします。
一方、2手目35玉の手順は攻方35飛を取らせて最後に攻方23飛を成って詰まします。
取られる駒と詰ます駒が二つの手順で入れ替わっています。
2手目14玉・35玉の二つの手順は実質的にどちらも作意手順と言えます。

このような多層的な表現を面白いと感じるか否かは個人差が大きいのが実情です。
いずれにせよ、作意・変化・紛れといった内包する複数の手順を如何に作り込むかは、超短編詰将棋における重要な課題でしょう。

② 真T 作
第10回PWCばか詰作品展 2006年11月15日
PWCばか詰 5手

結果発表:第10回PWCばか詰作品展

【 ばか詰(協力詰)】
先後協力して最短手数で受方の玉を詰める。
PWC
取られた駒は取った駒が元あった場所に復元する。(駒位置の交換となる)
[ 補足 ]
戻り方等は以下の細則に従う。
1) 駒の成・生の状態は維持されたまま位置交換される。
2) 位置交換の結果、相手駒が二歩になったり、行きどころのない駒になる場合は、通常の駒取りと同じで、盤上に戻らず、自分の持駒になる。
3) 駒取り時、駒が戻るまでを一手と見なす。
4) 取られた玉は復元しないものとする。

28飛、26桂、18飛、同桂成/26飛、27飛 迄5手。

注目すべきは4手目の局面。
初形から受方18成桂が追加されただけの局面が現れます。

これで5手目27飛と両王手をすれば詰め上がりです。

詰め上がりと言われても、6手目27同玉として王手を解除できそうです。
しかし、PWCルールがあるので取られた飛車が17の地点に復元して王手を解除できていません(6手目27同玉/17飛)。

手順に受方18成桂を発生させる目的は受方玉の退路を封鎖するため。
この成桂はどこから現れたのでしょうか?
わずか4手で何が起きたのか見ていきましょう。

初手28飛に26桂と合駒をさせて18飛とします。

重要なのは次の手。
4手目は同桂成とします。

この瞬間は受方玉に王手がかかっているので「そんな手できないよ!」と思うかもしれません。
PWCルールがあるので取られた飛車は桂がいた地点、つまり26の地点に復元します(4手目同桂成/26飛)。

18同桂成と26飛の復元が同時に起こって一手とみなすので、受方玉に王手はかかっていません。
これで初形から受方18成桂が追加されただけの局面が現れました。
攻方26飛・35角の開王手が可能なユニットが再構築されているもの面白いところ。
狙いが力感なく表現されていて、美しい完成品と言えます。

③ Noam Elkies 作
Thema Danicum 1998年

Proof game in 9.5

【 Proof game(PG) 】
実戦初形から始めて、指定された手数で問題図に至るような手順を求める。

1.Sf3 f6 2.Sd4 f5 3.Sb5 f4 4.d4 f3 5.Be3 fxe2
6.Kd2 e1=S 7.Bc4 Sd3 8.S1c3 Se5 9.Qh5+ Sf7 10.Bxf7#
※ナイト(Knight)の棋譜表記は通常「N」ですが、チェス・プロブレムでは「S」と表します。

↓ 駒を動かして鑑賞したい方はこちら。見にくい場合は「開く」(四角いボタン)をクリックしてlichessの画面でご覧ください。

「実戦初形から9.5手で問題図に至る手順を求めよ」という問題設定。
Proof gameを初めて見た人はどこから手を付けたらよいか分からないかもしれません。
問題図では黒キングがメイトされているのが目に付きます。
h5には白クイーンがいるのでf7に黒駒がいる状態で10.Bxf7#だと分かります。
その他の黒駒は初形と同じです。
動かなかったか、動いた後に復元したかのどちらかでしょう。
白は様々な駒が動いていますが、白ポーンが1枚ありません。
これを消去する方法が本作を解く重要なポイントです。

白駒を動かすのに最短で何手かかるか計算してみます。

f7の白ビショップ
f7の白ビショップはプロモーションを除けば初形のf1から動いたものとしか考えられません。
ビショップは駒の性質上同じ色のマスにしか動けないからです。
e2の白ポーンがe2の地点から退けば、f1→c4→f7と2手で動かすのが最短となります。
e3の白ビショップ、d4の白ポーン
同様にe3の白ビショップは初形のc1から動いたものだろうと見当が付きます。
初形でd2にいる白ポーンが1手でd4まで動けば、c1→e3と1手で動かすのが最短となります。
d2の白キング
d2にいる白キングはe1→d2と1手動かすのが最短ですが、Be3としてからでないと最短になりません。
h5の白クイーン
h5の白クイーンはe2の白ポーンがe2の地点から退けば、d1→h5と1手で動かすのが最短。
b5・c3の白ナイト
残るはb5・c3の白ナイトがそれぞれどこから来たか。
ややこしいようですが、実際に動かして考えてみると
・g1→f3→d4→b5 3手
・b1→c3 1手
が最短だと分かります。
ここでg1→f3→d4→b5の最短ルートはd2の白ポーンをd4に動かした後には成立しないことに気を付けなければなりません。

白駒を動かすのに最短で何手かかるのか、まとめてみます。

・b5の白ナイト:g1→f3→d4→b5 3手
・d4の白ポーン:d2→d4 1手(Sb5の後)
・e3の白ビショップ:c1→e3 1手(d4の後)
・d2の白キング:e1→d2 1手(Be3の後)
・f7の白ビショップ:f1→c4→f7 2手(e2が空マスになった後)
・h5の白クイーン:d1→h5 1手(e2が空マスになった後)
・c3の白ナイト:b1→c3 1手
合計すると10手になります。
問題設定は9.5手なので白の手には全く余裕がありません。
消えた1枚の白ポーンの正体は初形でe2にいる白ポーンと考えられます。
この白ポーンは黒駒で取りに行くしかなさそうです。

黒の陣形を崩さずにe2の白ポーンを取りに行くには、g8の黒ナイトで取りに行ってg8に戻るという手順が考えられます。
可能なのか実際に試してみましょう。

1.Sf3 Sf6 2.Sd4 Sd5 3.Sb5 Sf4 4.d4 Sxe2 5.Be3 Sf4
6.Kd2 Sd5 7.S1c3 Sf6 8.Bc4 Sg8 9.Qh5 ??? 10.Bxf7#

実際に試してみると黒の9手目で有効な指し手がありません。
2手余裕があるなら例えばb8の黒ナイトをb8→c6→b8と動かせば解決します。
しかし、余裕があるのは1手なのでどこで消費するかは非常に悩ましいです。
e2の白ポーンを取りに行くのにg8の黒ナイトを使うという仮定が間違っていたようです。

他に考えられるのは初形でf7にいる黒ポーンで取りに行ってf7に戻るという手順。
プロモーションして別の駒になれば元の地点に戻れそうです。
例えば、
f7→f6→f5→f4→f3→fxe2→e1=S→Sd3→Se5→Sf7
というルートで動かせば9手です。
1...f5?とできるところを1...f6と余分な1手を指すのがポイント。
黒ポーンを動かすルートは他にもありますが、白の手と組み合わせることで未確定だった手順が一意に定まります。

本作の見所はプロモーションした駒が手順に取られて消えるところ(Ceriani-Frolkin theme)。
問題図からすぐには予想できない手順なのでとても意外性があります。
しかも、f7から動かした黒ポーンが一周してf7まで戻ってきます(Rundlauf)。
加えて「黒がどのように1手を消費するか?」という課題が与えられていて、実に巧妙で奥深く創られています。

2.シナトラセレクション 第6回

担当:シナトラ

いまnoteで『チェス・プロブレム入門』の感想を書く連載をしているのですが、作品紹介はほとんど出来ておらず取りこぼしだらけなので、この機会にHelpmateから3作紹介してみます。
読書感想文|シナトラ|note
チェス・プロブレム入門 | つみき書店

H08
Hiroshi Nagano
Problem Paradise 1996 Commendation

H#2 4solutions

1.Sb6 Qf3 2.Sc4 dxc3#
1.Se4 Qb3 2.Se3+ dxe3#
1.Kc4 Qb1 2.Bd4 d3#
1.Bf6 Qg4+ 2.Ke5 d4#

↓ 駒を動かして鑑賞したい方はこちら。見にくい場合は「開く」(四角いボタン)をクリックしてlichessの画面でご覧ください。

白の手は初手がQ、2手目がPで統一されています。
中でもPの動き方には注目で、4つの解においてc3, e3, d3, d4という風になっていますね。
このように、2段目にいる白Pを4箇所(最大限)に動き分けるテーマをAlbinoと呼びます。
ツインを使わずに4解の形で成立させたところはセールスポイントと言えるでしょう。

H17
Toma Garai
Problem Paradise 1997 2nd Honorable Mention

H#3 2solutions

1.Kc6 Sd4+ 2.Kd7 Sb3 3.Ke6 Sc5#
1.Re3 Bh8 2.Se4 Sg7 3.Kd4 Se6#

手がかりが少なく、空中で捕獲するしかない形です。
まず1解目はSが連続で跳ね、Ba2とバッテリーを形成します。
2解目では1...Bh8 !とするのが派手な手。
これは2...Sg7でバッテリーを形成するための限定移動ですね。
異なる方向からの、2種類のダブルチェック(両王手)メイトが秀逸です。

HP10
Michel Caillaud
Problem Paradise 1998 1st Prize

H#3 2solutions

1.Bg8 Rb1 2.axb1=B Bh4 3.Bbh7 Bf6#
1.Kg8 Bg1 2.hxg1=R Re3 3.Rg7 Re8#

取られる駒と詰ませる駒の入れ替わり(Zilahi)のテーマではありますが、それよりも手順全体を貫くコントラストに注目したい作品です。
具体的に書くならば、黒の初手は同地点着手(g8)・白の初手は捨駒・黒の2手目はそれを取りながらのPの成り・・・といった具合でしょうか。
そして、これらを表現しているのはたった10枚の駒。
完璧というのは、こういうことなんですね。

今回は以上です。これのオーソドックス編もやりたいですが、変化手順がたくさんあるので、動く盤を使うのは厳しいかもしれませんね。

3.募集

■ チェス・プロブレム(Orthodox, Helpmate)解付き
隔月でチェス・プロブレムの解付き出題を行っています。
チェス・プロブレム作品を募集します。
但し、OrthodoxとHelpmateに限らせていただきます。
下記①~⑤の情報を編集長・駒井めいまで送付してください。
・Eメールアドレス:meikomaivtsume[at]gmail.com
TwitterのDM:@MeiKomai_Tsume
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① 作者名(ペンネーム可)
② 作品図面
③ ルール、手数、ツインなどの出題条件
④ 作意解
⑤ 狙いなどの作者コメント(省略可)
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2022年8月号掲載分の締切:2022年7月31日
※ 検討ソフトとしてOliveHelpmate Analyzerなどがあります。

■ 掲載記事
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内容は論考、作品紹介、入門、詰棋書紹介、宣伝など何でも構いません。
単発・連載どちらでも受け付けます。
字数制限は特にありません。
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