めいまが

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン

めいまが 2022年6月号

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン「めいまが」です。

1.Orthodox・Helpmate 解付き 出題

今回はHelpmateのみの出題です。
作品は随時募集中で、詳細は募集欄をご覧ください。
解答は同号の最後の方で発表します。

① 駒井めい 作

H#1 2 solutions

【 Helpmate in n (H#n) 】
黒から指し始め、黒白協力してn手(最短手数)で黒のキングを詰ます。もしnが半整数なら、白から指し始める。
詰将棋と異なり、白に王手義務はない。

② antilles 作

H#2 2 solutions

2.編集長のおすすめ作品

① kisy 作 スマホ詰パラ No.11976 2018年10月28日
詰将棋 5手

76金、65香、66角、47飛、57桂 迄5手。

5種合(金→香→角→飛→桂)を最短手数である5手で表現した作品。

57桂と打てれば1手で詰みますが、初形では受方94角が攻方王に王手をかけています。
初手は76金とするしかありません。
2手目85歩などは57桂迄。
その隙を与えないように2手目65香と逆王手をかけるのが最善。

3手目66角と逆王手を防ぎながら開王手をします。
4手目48歩は44と迄の駒余り。
4手目47飛とここでも逆王手をするのが最善です。

2手目65飛と先に飛車を使ってしまうと、4手目47飛ができなくなってしまいます。
これによって2手目は香合に限定されているわけです。
最後は57桂迄で、攻方49香が利いているために6手目同飛とは取れません。

何が起こったのかを整理してみます。
攻方は1手目で金、3手目で角、5手目で桂を合駒しています。
一方、受方は2手目で香、4手目で飛を合駒しています。
双方合わせて5種類の合駒をしたことになります。
如何に難条件であるかは配置から伝わってきますが、手順を成立させる仕組みが実に明快なのが見事なところです。

② 橘圭伍 作 WFP 2014年1月

出題(WFP第67号):http://www.dokidoki.ne.jp/home2/takuji/WFP67.pdf
結果発表(WFP第69号):http://www.dokidoki.ne.jp/home2/takuji/WFP69.pdf
WFP作品展鑑賞室:http://k7ro.sakura.ne.jp/jTMLView/TMLView.html?../wfp/wfp59-1.xml

【 協力自玉詰 】
先後協力して最短手数で攻方の王を詰める。
【 Kマドラシ 】
同種の敵駒の利きに入ると利きがなくなる。玉も対象。
【 Locust 】(蝗)
Queenの利きの方向にある敵駒を跳び越えその一つ先の空きマスに着地し、跳び越えた敵駒を取る。

22飛、同-12蝗、22金、11金 迄4手。

「受方玉も攻方王もいないじゃないか!」と思うかもしれません。
通常の受方玉の代わりが受方82蝗、攻方王の代わりが攻方18蝗です。
「蝗」はLocustと呼ばれるフェアリー駒(変則駒)を表しています。
それが王将・玉将の代わりなのでLocust王と書いてあるわけです。
協力自玉詰なので最終的に攻方18蝗を詰ますことになります。

初手22飛は限定打で、受方82蝗に対して王手をかけています。
王手を解除するために受方82蝗で攻方22飛を取ります。
どう取るかというと、攻方22飛を跳び越えて空いた12の地点に着地します。
このとき跳び越えた攻方22飛を取ります。

かなり特殊な動きと駒取りですが、これがLocustの性質です。
さて、2手目までの局面では攻方18蝗が受方12蝗に対して王手をかけているように見えます。
攻方18蝗は受方12蝗を跳び越えて11の地点に着地できるからです。
自玉を王手に晒す手なので2手目の着手は無理なのでは?と思うかもしれません。
ここでKマドラシの登場です。
どういうことかと言うと
・攻方18蝗は受方12蝗の利きに入っている
・受方12蝗は攻方18蝗の利きに入っている
という状況で、受方12蝗も攻方18蝗もKマドラシの効果で利きがなくなっているのです。

ここからの2手が更に重要です。
3手目22金と受方12蝗に対して王手をかけます。
これに対して4手目11金とすれば、Kマドラシの効果で攻方22金の利きがなくなって王手が解除できています。

実はこれで攻方18蝗が詰んでいるのですが分かるでしょうか。
11の地点が金で埋まったことで
・攻方18蝗は受方12蝗の利きに入っている
・受方12蝗は攻方18蝗の利きに入っていない
という状況に変わりました。
Locustは跳び越えた先が空きマスでなければ利きを持ちません。
受方12蝗はKマドラシの効果が外れて利きが元に戻りました。
つまり、受方12蝗は攻方18蝗に対して王手をかけています。
一方、攻方18蝗はKマドラシの効果で利きがなくなったままで動けません。
他に受ける手段もないので詰め上がりです。

Kマドラシの効果が最終的に攻方のLocustだけに働いているのが重要なポイント。
通常のKマドラシでは起こり得ないことです。
例えば、受方11金・攻方22金はKマドラシの効果で双方利きがなくなっていますが、片方だけKマドラシの効果を外すのは不可能なはずです。
この現象はKマドラシ(あるいはマドラシ)に他のフェアリールールやフェアリー駒を組み合わせることで現れるものです。
この複雑な現象を端的に描いた点で、本作は非常に価値があります。

③ Jean Haymann and Shaul Shamir 作 2nd Prize The Problemist 2015年

Helpmate in 2,  2 solutions

The Problemist: BRITISH CHESS PROBLEM SOCIETY(2015年3月号に掲載)

1.Bxc2 Bb2 2.Sxb2 Sc1#
1.Bxa2 Sa4 2.bxa4 Rc3#
※ナイト(Knight)の棋譜表記は通常「N」ですが、チェス・プロブレムでは「S」と表します。

↓ 1解目

↓ 2解目

ZilahiとActive sacrifice。

黒の1手目で1.Bxc2/Bxa2と白駒を取ります。
Helpmateなので黒としては自分のキングをメイトしてほしいはず。
敵の戦力を削ぐのは不思議な感じがします。
目的は自ら退路を封鎖すること(Self-block)。
ここから1解目では1...Bb2 2.Sxb2、2解目では1...Sa4 2.bxa4と捨駒をします。
メイトするためにb2/a4にそれぞれ利かせておきたいのですが、これらの駒が邪魔でSc1/Rc3と動かしてメイトできないのです。
b2/a4の地点へ邪魔な駒を捨てて白駒を動かすためのマスを空けつつ、黒に取らせることで退路を封鎖して解説します。
これで2.Sc1/Rc3#が実行できてメイト。

a2の白ナイトとc2の白ルークは取られる駒とメイトする駒ですが、2つの解で役割が入れ替わっているのが分かります(Zilahi)。
それぞれの駒の取られ方は消極的なわけですが、1...Bb2/Sa4という積極的な駒捨て(Active sacrifice)が加わっているのが本作の面白いところ。
Zilahiというポピュラーなテーマを極めて自然に発展させているのが素晴らしいです。

3.シナトラセレクション 第5回

担当:シナトラ

前回は忙しくて休んでしまいました。
今回は伝統ルールについて書きます。

最近、某氏から斎藤光寿さんの作品リストをいただきました。
斎藤光寿さんといえば構想寄りの作品を得意とされている印象で、発表作はどれも面白い狙いがあり、私の好きな作家の一人です。
氏が本領を発揮するのは中編手数かと思っていましたが、リストを眺めていると短編にも好作がありました。
そんなわけで今回の記事では斎藤光寿さんの短編から2作ご紹介したいと思います。

詰パラ 2015年10月

47角、96玉、97歩、同玉、25角、96玉、
97歩、95玉、69角、94玉、95飛、同玉、
96歩、94玉、95歩、同玉、97飛 まで17手。

斎藤さんの最初期の作品。
打歩詰を回避する限定移動×2がメインテーマですが、私は69角からの収束手順のほうに驚かされました。
こう上手く纏まるものでしょうか。

第б回裏短編コンクール 2020年11月 「ワンパク」

65角、46桂合、54角、47玉、56龍、同玉、65角 まで7手。

1手でX地点に行って両王手をかけられるにも関わらず、あえて一度Y地点を経由するというのがテーマ。
このような時間差攻撃を成立させる意味付けはいくつも考えられるところですが、この作品においては中でも高尚な部類に入る「玉方駒発生(セルフブロック)」が用いられていますね。
さらに注目すべきは最終手。
Y地点に駒がスイッチバックして詰みとなるのですが、この手順構成(Tempo move的に経由した地点に駒が戻ってくる)には非常にオリジナリティがあるように思います。

初手の不利感や合駒限定のロジックも加点要素であり、7手詰の名作と言えるレベルに達しているのではないでしょうか。

今回は以上です。
次回も詰将棋について書く予定でいます。

4.詰棋書紹介

谷川浩司 著 精選詰将棋 「光速流」からの挑戦状(文藝春秋
発売日:2022年6月27日

books.bunshun.jp

谷川浩司先生の9~19手詰が収録された作品集のようです。
谷川先生と言えば、十七世名人を襲位したと先日発表されたところです。

www.shogi.or.jp

プロ棋士としての谷川先生の実績は言うまでもありませんが、詰将棋作家としても一流です。
指し将棋が強いからといって詰将棋を創るのが上手いわけではありません。
どちらも一流というのは驚きしかありません。

さて、詰将棋作家としてどれだけ凄いのか。
詰将棋界に詳しくない方はあまりよく知らないかもしれません。
谷川先生は詰将棋パラダイスという詰将棋専門誌で100回以上入選しています。
詰将棋パラダイスでは入選100回以上になると「同人作家」と呼ばれます。
普通の人間は1回でも入選すれば泣いて喜んで友達に自慢しまくるところです。
入選するような凄い作品を100作以上世に出しているのですから、どれだけ凄いことなのか何となく伝わると思います。

詰将棋ファンなら当然買う一手でしょう。

5.Orthodox・Helpmate 解付き 解答

① 駒井めい 作

H#1 2 solutions

[ 解答 ]
1.Sf2 Qd6# (Qh2?)
1.Bf1 Qh2# (Qd6?)

↓ 1解目

↓ 2解目

[ 解説 ]
白の手番なら1...Qd6/Qh2#。
メイトする手段が複数あります。
黒が有効な手待ち(Tempo move)ができればよいということです。
f3の黒ポーンを動かすのはQd6でもQh2でもメイトしません。
h1の黒ナイトはメイトに無関係そうなので、これを動かす手を考えてみます。
1.Sf2と動かすしかありません。
クイーンの利きが遮られて1...Qh2ができなくなりましたが1...Qd6#ができます。
もう一つの解ではh3の黒ビショップを動かします。
1.Bf1と動かすとh3の地点が空いてしまいます。
1...Qd6がメイトではなくなりましたが1...Qh2#があります。
白の手番と仮定したときの1...Qd6/Qh2#が、黒の手待ちによって一方に限定されるというのが本作の狙い。

② antilles 作

H#2 2 solutions

[ 解答 ]
1.Sc3 Rg5+ 2.Kb4 Bxc3#
1.Sf6 Bf2+ 2.Kd6 Rxf6#

↓ 1解目

↓ 2解目

[ 作者コメント ]
黒のactive sacrificeを白が遅れて取る狙いです。

[ 解説 ]
強い駒を使おうということで、e1の白ビショップとg6の白ルークを活用することになりそうです。
しかし、c5の黒キングはこの地点にいる限り2手ではメイトできません。
b6の白ナイトの存在がヒントになります。
黒キングはどこに動けばよいでしょうか?
一つ目の解では実は黒キングをb4の地点に動かしてメイトします。
b4の地点にはe1の白ビショップが利いているので、1.Sc3と利きを遮るのが重要な一手。
1...Bxc3とすぐに取っては意味がないので、1...Rg5+と別の手を指します。
これは黒キングが後に逃げられないようにガードする手。
2.Kb4に2...Bxc3#と白ビショップで遅れて駒を取ってメイトします。
もう一つの解では黒キングをd6に動かします。
同様にd6の地点にはg6の白ルークが利いています。
今度は1.Sf6と利きを遮って最後は2.Rxf6#と白ルークでメイト。

手順の意味をまとめてみます。
d5の黒ナイトをそれぞれの解でc3/f6の地点に捨てます。
最終的な目的はBxc3/Rxf6と取ってメイトしてもらうため。
これを白が遅れて取るというのが本作の狙い。
遅れて取る理由は利きを遮って陰に黒キングを動かすためです。
e1の白ビショップとg6の白ルークはメイトする駒とガードする駒ですが、それぞれの解で役割が入れ替わっています。
見事な対照性が表現されていて、狙いも実に明快です。

6.募集

■ チェス・プロブレム(Orthodox, Helpmate)解付き
隔月でチェス・プロブレムの解付き出題を行っています。
チェス・プロブレム作品を募集します。
但し、OrthodoxとHelpmateに限らせていただきます。
下記の情報を編集長・駒井めいのTwitter@MeiKomai_Tsume)のDMへ送付してください。
① 作者名(ペンネーム可)
② 作品図面
③ ルール、手数、ツインなどの出題条件
④ 作意解
⑤ 狙いなどの作者コメント(省略可)
2022年8月号掲載分の締切:2022年7月31日
※ 検討ソフトとしてOliveHelpmate Analyzerなどがあります。

■ 掲載記事
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