めいまが

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン

めいまが 2022年4月号

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン「めいまが」です。

【 改訂 】
編集長のおすすめ作品に掲載されていた動くチェス盤を、試験的にlichessのものに差し替えました。(2022年4月10日)

1.Orthodox・Helpmate 解付き 出題

今月号から隔月でOrthodox・Helpmateの解付き出題を行います。
作品は随時募集中で、詳細は募集欄をご覧ください。
解答は同号の最後の方で発表します。

① antilles 作
f:id:MeiKomai:20220405203146p:plain
#2

【 Mate in n (#n) 】
白から指し始め、黒がどのように応じてもn手以内で黒のキングを詰ます。
詰将棋と異なり、白に王手義務はない。

② 駒井めい 作
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H#2 2 solutions

【 Helpmate in n (H#n) 】
黒から指し始め、黒白協力してn手(最短手数)で黒のキングを詰ます。もしnが半整数なら、白から指し始める。
詰将棋と異なり、白に王手義務はない。

2.編集長のおすすめ作品

① divD 作 スマホ詰パラ No.13400 2019年8月9日
詰将棋 7手

27飛、(イ)38玉、37飛、48玉、38飛、49玉、28飛 迄7手。
(イ) 同飛成は57金、38玉、27角、29玉、38銀迄同手数駒余り。

狙いは非常に明快で、攻方飛が一回転します(28→27→37→38→28)。
作意を見れば狙いが誰の目にも明らかで、こういう作品は本当に気持ちが良いです。
攻方15角・16角の利きを攻方飛で遮りながら、最終的に玉を49の地点まで誘導します。
味方の駒の利きを遮るのは、損な手を指しているようにしか見えません。
そうしないと詰まないのが面白いですね。

② シン 作 WFP第29号 第28回WFP作品展 2010年11月
キルケ協力詰 7手

【 協力詰 】[1]
先後協力して最短手数で受方の玉を詰める。
【 キルケ 】[1]
駒が取られると最も近い将棋での指し始め位置に戻される。戻せないときは持駒になる。
[補足]
戻り方等は以下の細則に従う
1) 成駒は生駒になって戻る
2) 戻り位置が埋まっていたり、二歩になったりする場合は戻れない。
3) 駒取り時、駒が戻るまでを一手と見なす。
4) 金銀桂香(成駒も含む)が5筋で取られ、複数の戻り先候補がある場合、戻る位置を選択できる。 
[1] WFP作品展登場ルールのまとめ(~137回) 

98飛、同龍/28飛、29飛、89龍、
同飛/82飛、同飛不成/28飛、98飛 迄7手。

本作も狙いは明快で、受方89龍を飛に変換します。

そうなれば、98飛迄で詰め上がりです。

何故これで詰め上がりなのでしょうか。
同玉で王手を解除できそうですよね。
取られた攻方飛は、キルケルールに則って最も近い将棋での指し始め位置、つまり28の地点に戻ります。

同玉で王手を解除したつもりでも、実は解除できていないのです。

出題図に戻って、受方89龍を飛に変換する過程を見ていきましょう。

初手98飛には同龍とする以外に王手を解除する手段はありません。
取られた攻方飛は、キルケルールに則って28の地点に戻ります。
2手目を符号で書くと、同龍/28飛となります。

ここから3手目29飛に4手目89龍と移動合をします。
協力詰なので、受方は自らが詰むように協力しています。
互いに協力して、初形から攻方28飛を29の地点に移動させただけの局面になりました。

受方龍を取れる形に持ち込むのが目的です。
龍を取れる形になったから何?と思うかもしれません。
その疑問は次で解消されます。
5手目同飛とすれば、取られた受方龍は82の地点に戻ります(同飛/82飛)。
このとき、キルケルールに則って龍ではなく飛として戻るのがポイントです。

成駒を成る前の状態に戻すことができるのです。
6手目同飛不成/28飛となれば、見事に初形の受方89龍が飛に変換された局面になりました。

こうなれば、7手目98飛迄で詰め上がりです。
キルケルールを存分に活かしたダイナミックな手順です。

③ Dmitry Banny, 4th Prize, Sahs/Shakhmaty(Riga), 1969
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Mate in 2

Try play:
1.e3? [A] (threat: 2.Qg2#)
   1...Qe6! [a]
1.e4? [B] (threat: 2.Qg2#)
   1...Qd6! [b]

Actual play:
1.Qd1! (threat: 2.Qg1#)
   1...Qe6 [a] 2.e4# [B]
   1...Qd6 [b] 2.e3# [A]
By-play
   1...Qxe2+ 2.Qxe2#
   1...Qd3 2.exd3#

↓ 駒を動かして鑑賞したい方はこちら。見にくい場合は「開く」(四角いボタン)をクリックして、lichessの画面でご覧ください。

白から指し始めて、2手で黒キングをメイトします。
但し、詰将棋と違って白に王手義務はありません。

本作は態度の保留がテーマです。
1.e3?/e4?は白クイーンの利きを通す手で、黒がパスのような手で応じれば、2.Qg2#とメイトできます。
これはthreatと呼ばれ、将棋でいう詰めろのようなものです。
しかし、1...Qe6!/Qd6!と白ビショップの利きを遮る手で逃れています。
2.Qg2+を実行すると2...Kxf5/Kxf4と逃げられ、2手でメイトする手段がありません。
すぐに1.e3?/e4?と決めてしまうのが問題です。

白クイーンの利きを通しながら、これらの手を後回しにする1.Qd1! (2.Qg1#)が正解です。
threatを受けるためには、白ビショップの利きを遮る1...Qe6/Qd6がやはり有効です。
2.Qg1+を実行すると、先程と同様に2...Kxf5/Kxf4と逃げられます。
しかし、白が態度を保留したおかげで、1...Qe6には2.e4#、1...Qd6には2.e3#と、f5/f4の白ポーンに紐を付けてメイトする手段があります。

話をまとめます。
A?にはa!、B?にはb!と受けられていました。
相手にa/bを先に指させることで、aにはB#、bにはA#と対応できる仕組みです。
要は後出しじゃんけんです。
記号で書き表すと、下記のようになっています。

Try play:
1.A?/B?
   1...a!/b!

Actual play:
1.X!
   1...a/b 2. B/A#

これはBanny theme※1と呼ばれています。

※1 Banny theme [2]:
First moves of tries become mates after the key: the first try is a mate after the second defence and vice versa.
[2] M. Velimirovic and K. Valtonen: "Encyclopedia Of Chess Problems -Themes And Terms-" (2012)

態度を保留するようなテーマは、詰将棋でも創られています。
詰将棋とチェス・プロブレムは互いに独立して発展してきたにも関わらず、このような類似性が見られるのはとても興味深いです。

3.シナトラセレクション 第4回

担当:シナトラ

今回で4回目になります。
これまでの3回で伝統ルール・フェアリー詰将棋チェスプロブレムと一周しました。
今回は詰将棋に戻るつもりでしたが、ちょっと予定を変えることにします。
というのも、駒井さんが動くチェス盤を導入してくださったことで長編のプロブレムを紹介しやすくなったからです。
いきなり長編と言うと身構える方もいるかもしれませんが、恐れることはありません。
動く盤さえあれば、手の意味付けを考えずに駒の動きをボーっと眺めることも出来ます。

そんなわけで今回は、Grigory Popovによる長編Orthodox作品を3作ご紹介します。
趣向的な詰将棋がお好きな方には堪らない内容になっていると思いますのでお楽しみください。

Grigory Popov
Super Problem 3rd Honorable Mention 2017
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#16

1.Rc8 Rd4+ 2.Ke2 Rd8 3.Rc1 Re8+ 4.Kd3 Re1 5.Rc8 Rd1+ 6.Ke4 Rd8 7.Rc1 Re8+ 8.Kd5 Re1 9.Rc8 Rd1+ 10.Ke6 Rd8 11.Rc1 Re8+ 12.Kf7 Re7+ 13.Kf8 Re1 14.Rc8 Be7+ 15.Kg8 ~ 16.Ra8#

駒を動かして鑑賞したい方はこちら ↓

双方のRによる連続最遠移動の趣向作。とても易しいので解説は不要でしょう。
黒の12手目以降は一例です(他の変化もあります)。

Valery Kirillov & Grigory Popov
StrateGems 2nd Prize 2011
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#12

1.Bc6+ Kc4 2.Bxe4+ Kb5 3.Bc6+ Kc4 4.Be8+ Kd5 5.Bh5 Ke4 6.Rc4+ Kd5 7.Rc7 Ke4 8.Sd6+ Kd5 9.Sb5 Ke4 10.Sd4 Kd5 11.Bxf3+ Kd6 12.Sb5#

駒を動かして鑑賞したい方はこちら ↓

まずはe4Pを原形消去します。
5手目以降はBf3でのメイトを狙いつつ、R, Sの順で位置を調節。
この順番を逆にすると、Ra7!の逆王手をくらってしまうので注意が必要です。
Sをd4まで運べばこれがf3に利き、受けが無くなります。
最後はSのスイッチバックでメイト。

Grigory Popov
Manfred Zucker-70 JT 3rd Prize 2008
f:id:MeiKomai:20220405235013p:plain
#18

1.Bh6 Ba5 2.Bc1 Bd8 3.Sd2 Kf4 4.Sxb3 Ke4 5.Sd2 Kf4 6.Sf3 Ke4 7.Bh6 Ba5 8.b4 axb3 ep. 9.Bc1 Bd8 10.Sd2 Kf4 11.Sxb3 Ke4 12.Sd2 Kf4 13.Sf3 Ke4 14.Bh6 Ba5 15.Rb4 Bxb4 16.Bc1 Bd2 17.Bxd2 ~ 18,Sg5#

駒を動かして鑑賞したい方はこちら ↓

初手はSd2#を狙った手。
これを受けるには1...Ba5しかありませんが、黒Bの利きが逸れたので2.Bc1(3.Sg5#)と再度引く手が成立します。
これが基本構造です。
3~6手目は白Sを使った黒Pを消去。
それからもう一度Bh6 Ba5のやり取りを挟み、続く8.b4!が鍵となる手です。
Rで取ればSd2までですし、Bで取ってもRxb4とすればやはりSd2までとなります。
これで受け無しに見えますが、2段目からダブルステップしたPをPで取ることができるアンパッサンの受けが残されていました。
結果的にまた黒Pがb3に現れたので、SでPを取る手順をもう一度繰り返すことになります。
15手目Rb4!が最後の決め手。
Bで取るしかありませんが、さらにBc1としてSg5#を狙えば、d6Pが邪魔でBe7と引くことが出来ないのです。
ちなみに17...d3は18.cxd3まで。
こちらの順を答えても、もちろん正解です。

今回は以上です。
noteには動く盤を実装できないようなので、プロブレムの長編作品はできるだけこちらで紹介したいと思っています。

4.Orthodox・Helpmate 解付き 解答

① antilles 作
f:id:MeiKomai:20220405203146p:plain
#2

[ 解答 ]
1.Se5! (threat: 2.Sc6#)
   1...dxe5 2.Bc5#
   1...Se7 2.Qe3#
   1...e3 2.Qd3#
※ナイト(Knight)の棋譜表記は通常「N」ですが、チェス・プロブレムでは「S」と表します。

[ 作者コメント ]
Set 1...exd3に対して白は次の手でメイトにできるので、Sd3は取られてもよい駒です。
それをあえて他のマスに「捨て直す」ように作ってみました。

[ 解説 ]
黒の手番だと仮定して、黒の受けを考えてみます。
1...exd3とd3の白ナイトを取る手には2.Qd3#、1...Sh4などとf5の黒ナイトをどこかに動かす手には2.Qe3#です。
とにかく、d3の白ナイトは取られても問題のない駒だと分かります。
ここで黒の厄介な受けは、1...e3と黒キングの逃げ道を空ける手です。
これに備える手が白に求められます。

白の1手目で白ビショップ・ルーク・クイーンを動かす手を試みても、なかなか上手くいきません。
実は取られても問題のないd3の白ナイトを動かします。
d3の地点を空けることで、1...e3に2.Qd3#を用意します。
問題はd3の白ナイトをどこに動かすか。
例えば1...Sc1 (2.Sb3#)とすると、1...Sxf4!とf4の白ポーンを取られて、2.Sb3+ Ke5と逃げられてしまいます。
従って、1...Sxf4に備えて、白の2手目でe5に利かせられないといけません。

正解は1...Se5! (2.Sc6#)と取られる位置にわざと捨て直します。
1...Sxf4には2.Sc6#、1...e3には2.Qd3#と対応できます。
1...dxe5と取られる手も気になりますが、黒ポーンの利きが逸れて2.Bc5#。
threatを受けるなら1...Se7とc6の地点に利かす手もありますが、これはe3の地点に利きが無くなって2.Qe3#。

d3の地点を空けながら、将来e5の地点に利かし直せるようにするのが、白の1手目の目的です。
一見すると、「取られてもよい駒を別の地点に捨て直す」というのが、損なやりとりに見えて面白いです。

② 駒井めい 作
f:id:MeiKomai:20220405203456p:plain
H#2 2 solutions

[ 解答 ]
1.Rc5 Qxb1 2.Re5 Qd3#
1.Bd3 exd3 2.Rc3 Qe4#

[ 解説 ]
b1の黒ビショップはメイトを阻害する駒で、これを消去するのが目的になります。
それぞれの解で「白から取るか」「黒から取らせるか」という違いがあります。
いずれの解でも、黒ルークで退路を封鎖してメイトします。
2つの解を完全に対応させるというより、駒の取られ方が若干異なるようにしたかった作品です。

5.募集

■ チェス・プロブレム(Orthodox, Helpmate)解付き
隔月でチェス・プロブレムの解付き出題を行っています。
つきましては、チェス・プロブレム作品を募集します。
但し、OrthodoxとHelpmateに限らせていただきます。
下記の情報を編集長・駒井めいのTwitter@MeiKomai_Tsume)のDMへ送付してください。
① 作者名(ペンネーム可)
② 作品図面
③ ルール、手数、ツインなどの出題条件
④ 解
⑤ 狙いなどの作者コメント(省略可)
2022年6月号掲載分の締切:2022年5月31日
※ 検討ソフトとして、OliveHelpmate Analyzerなどがあります。

■ 掲載記事
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