めいまが

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン

めいまが 2022年3月号

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン「めいまが」です。

シナトラ氏によるシナトラセレクションも第3回で、今回はチェス・プロブレムの作品紹介です。
入門的な内容にもなっているので、あまり詳しくない方も是非ご覧ください。

また、先月号で告知した通り、2022年4月号よりチェス・プロブレムの解付き出題を始めます。
現在、作品を募集中です。
チェス・プロブレム創作初心者からの投稿も大歓迎です。
詳細は募集欄をご覧ください。

1.編集長のおすすめ作品

① 盤上の狼 作 スマホ詰パラ No.8703 2017年1月12日
作品名「ハビタブルゾーン
詰将棋 3手

16龍、57龍、25龍 迄3手。

初手のインパクトが大きく、短い手数で簡潔にまとめられています。
初手は26龍と角の利きを通しながら両王手をかける手が有力そうです。
しかし、2手目14玉と寄られると、受方21香がよく利いていて詰みません。
初手55龍などと動かしてもやはり2手目14玉で失敗します。
14玉と逃げられないように、初手16龍と両王手をせずに14の地点に利かすのが正解です。
2手目57龍と角を取って、3手目25龍迄で詰め上がりです。
両王手をせずに、攻方龍を回りくどく活用するのが不思議な感じですね。
全着手龍なのも、さり気ないポイントでしょうか。

② シン 作 WFP第18号 第1回フェアリー短コン 2009年12月
PWC協力詰 7手

【 協力詰 】[1]
先後協力して最短手数で受方の玉を詰める。
PWC[1]
取られた駒は取った駒が元あった場所に復元する。(駒位置の交換となる)
[補足]
戻り方等は以下の細則に従う
1) 駒の成・生の状態は維持されたまま位置交換される。
2) 位置交換の結果、相手駒が二歩になったり、行きどころのない駒になる場合は、通常の駒取りと同じで、盤上に戻らず、自分の持駒になる。
3) 駒取り時、駒が戻るまでを一手と見なす。
4) 取られた玉は復元しないものとする。
[1] WFP作品展登場ルールのまとめ(~137回)

66飛、36桂、28桂、同桂成/36桂、44桂、17玉、16飛 迄7手。

PWCルールを活かしたバッテリー※1構築とアンピン※2が面白い作品です。
※1 アンピン(Unpin):ピン状態を解消すること。
※2 バッテリー(Battery):開き王手が可能な一対の駒。
初形では攻方77玉が受方33角に王手されている状態です。
初手は66飛と合駒をする一手です。
これに対して2手目は36桂と合駒をします。
協力詰なので、受方は自分が詰まされるように協力しています。
どう協力しているのでしょうか。
この意味を理解するために、手順を進めてみます。
3手目28桂に4手目同桂成/36桂と進行します。

4手目で何が行ったかというと、受方36桂が攻方28桂を取り(同桂成)、取られた攻方28桂が36の地点に復元した(36桂)ということです。
PWCルールに則って、受方36桂と攻方28桂の位置交換が行われたのです。
この一連の手を符号で表すと「同桂成/36桂」となります。
これで攻方36桂を動かせば開き王手ができる形になりました。
5手目44桂と受方33角の利きを遮れば、攻方66飛が自由に動けるようになります。
その前までは受方33角が攻方77玉を間接的に睨んでいたために、攻方66飛を動かそうとすると攻方玉に王手がかかってしまう状態でした。
6手目17玉に7手目16飛迄で詰め上がりです。

PWCルールに慣れていない方は、これで詰め上がりなことを不思議に思うでしょう。
8手目16同玉として王手を解除できそうですよね。
実は8手目16同玉とすると、攻方16飛は駒位置交換によって盤上に残り続けます(16同玉/17飛)。
これでは王手が解除できていないのです。

攻方の飛合をアンピンして動かすというストーリーです。
PWCの特徴を活かした巧い構成でしょう。

2.シナトラセレクション 第3回

担当:シナトラ

第3回となる今回はチェスプロブレムについて書くことにしましょう。
一口にチェスプロブレムといっても様々なルールがあるのですが、まずはHelpmateをご紹介したいと思います。
というのも、詰将棋をする人にとって最も馴染みやすいルールがHelpだからです。
ちなみに詰将棋で言うところの伝統ルールに相当するOrthodoxは、実は詰将棋作家の感覚と相当なズレがあります。

まずHelpのルールについて。
白黒が協力して黒のキングをメイトにします。
そして、基本は黒先です
勘違いしている人が多いポイントですので注意してください。
駒の動きや棋譜の読み方については割愛します。
分からないという方はネットを使って調べていただけるとありがたいです。


文章で説明したところで頭には入りづらいと思いますから、とりあえず1作。

Josif Kricheli
Ajedrez Mágico Commendation 1971
f:id:MeiKomai:20220302195739p:plain
H#2 2solutions

まずは記号の意味を説明します。
H#2とはHelpの2手詰という意味。
黒→白→黒→白でメイトにします。
そして2solutionsなので解は2つです。
Help(特に短手数)では、複数解形式を用いてテーマを表現することが一般的になっています。

それでは解いてみましょう。
ただしこの作品は片方の解でチェス特有の手が登場しますので、そこには注意してください。

 

正解は以下です。

1解目 ↓

1.Rf8 Bd6 2.Sd8 Re7#

2解目 ↓

1.0-0 Be5 2.Sh8 Rg7#

1解目はRとSで壁を作って単純なメイトとなります。
これは見えたという方も多いのではないでしょうか。
続く2解目ですが、こちらはキャスリングを用います。
0-0というのが短いキャスリングを表す記号で、これによりKがg8に、Rはf8に移動します。
白は1解目と同様、B→Rの順で動かしてメイトです。

さて、ここで1解目と2解目の詰上りを見比べてください。
異なる地点で似たような詰み形となっていることが分かりますね。
このような構成をEchoと呼んだりします。
複数解形式においては、このように解同士に何らかの関係があることが求められるのです。


とても易しいものをご紹介したので、次はよりHelpらしいものを。

Josif Kricheli
Schach-Echo 1st Prize 1973
f:id:MeiKomai:20220302200318p:plain
H#2 2solutions

ルールは先程と全く同じです。
ただし、まだ慣れていない方には難しい問題ですから、諦めて下にスクロールするのもOKです。
鑑賞するだけでも充分に意味があります。

 

正解は以下。

1解目 ↓

1.Bd4 Bf1 2.Sd3 Re2#

2解目 ↓

1.Bf4 Rg2 2.Sd2 Bf2#

簡単に実現できそうな詰みはRe2まで。
そのためにはBd4とする手とc1にいるSをどこかに跳ねる手が必要です。
前者は良いとして、問題は後者。
Sを跳ねると白Kに対してcheckがかかってしまいます。

それを予防しておくのが白の初手、Bf1!。
未然に黒Rのラインを切っておけば良いわけですね。
これで全て解決したように思われますが、実はもう一つ罠があります。
Bf1としてしまうと、決め手のRe2の時にそのRが邪魔をしてe3に逃げ道が出来てしまうのです。
というわけで、黒の2手目がSd3に限定されて、これでメイト。

2解目では1解目との関連に着目してみましょう。
目指すのはBf2までのメイトで、そのために必要なのはe5Bをf4に動かす手と、e4Sをどこかに跳ねる手の2つです。
問題なのは1解目と同様にSのほうで、これを動かすとやはり白Kにcheckがかかります。
よってRg2!と指さざるを得ませんが、2...Bf2の時にd2に逃げ道が空いてしまうのです。
そこを塞ぐために黒の2手目はSd2に限定されていることが分かり、全ての謎が解けました。

こうして1つ1つの着手の意味に注目してみると、2つの解の間に完璧な対照性があることを理解していただけると思います。
これこそがHelpの醍醐味なのです。
また、Bf1やRg2といった不利益な手(Anti-critical move)が出てくるのも本作の面白いところ。
1解目のみメイト形が重いのは減点材料なものの、好作だと思います。


いかがだったでしょうか。
難しかったかもしれませんが、プロブレムの世界に少しでも興味を持っていただけると嬉しいです。

最後に宣伝をさせてください。
今回の2作品の作者であるKricheliはHelpの世界において最高の作家の一人です。
この人の作品をもっと見たいという方は、私のnoteの連載をご覧ください。
リンクは以下。

note.com

3.詰棋書紹介

綾瀬研 著、斎藤慎太郎 推薦
「終盤力を鍛える3・5・7手 ランダム詰将棋
マイナビ出版

今回紹介するのは、マイナビ出版より2022年3月2日に発売された「3・5・7手 ランダム詰将棋」です。

book.mynavi.jp

3・5・7手の詰将棋が200作収録された本です。
2021年5月に発売された「1・3・5手 ランダム詰将棋」の続編です。

book.mynavi.jp

手数順ではなく、ランダムに作品が配置されているのが本書の大きな特徴です。
詰将棋作品集として楽しむだけでなく、本将棋の棋力向上にも役立つよう構成が工夫されています。

作品の創作を担当したのは、馬屋原剛氏・久保紀貴氏・太刀岡甫氏・藤原俊雅氏・岸本裕真氏の5名です。
前回から岸本裕真氏が加わった作家陣となっています。
いずれも専門誌などで活躍している気鋭の若手作家です。
収録作の質はまず間違いないと思ってよいでしょう。

前回との大きな違いは収録作の手数です。
前回5手までだったのが、今回7手まで拡張されました。
詰将棋を創ったことがない方はあまりピンとこないかもしれません。
しかし、この2手の違いは作家視点で見るとかなり大きいです。
表現の幅はグッと広がり、収録作の面白さは前回から更にパワーアップしています。
前回が面白かったという人は、間違いなく満足できる内容となっています。

7手詰と聞いて「そんな手数…解けない…」という方もいるかもしれません。
詰将棋は棋力向上のための問題という側面以外にも、芸術作品という側面も持っています。
すぐに正解手順を見て、盤に並べて理解し、面白さを味わう。
そういう楽しみ方だって当然アリなのです。
それほど身構えなくとも、様々な棋力の方に役立ち楽しめる一冊になっています。
実際に手数の割には難しい作品が多い印象を抱いたので、自信のない人は鑑賞用と割り切ってもよいと思います。

また、他の一般的な詰棋書と異なる点として、作家紹介が掲載されています。
実績や棋力の他、自分の作風など様々な質問に答えるQ&A方式となっています。
詰将棋作家にスポットが当たっているのは、一般の詰棋書としてはかなり珍しいでしょう。
面白いと思ったのが、「本書の中のイチオシ」という質問です。
作品に対して抱く印象というのは、実に人それぞれです。
自分の好みと照らし合わせながら読んでいくのも、楽しみの一つだと思います。

4.募集

■ チェス・プロブレム(Orthodox, Helpmate)解付き出題
2022年4月号より隔月でチェス・プロブレムの解付き出題を始めます。
つきましては、チェス・プロブレム作品を募集します。
但し、OrthodoxとHelpmateに限らせていただきます。
下記の情報を編集長・駒井めいのTwitter@MeiKomai_Tsume)のDMへ送付してください。
① 作者名(ペンネーム可)
② 作品図面
③ ルール、手数、ツインなどの出題条件
④ 解
⑤ 狙いなどの作者コメント(省略可)
2022年4月号掲載分の締切:2022年3月31日
※ 検討ソフトとして、OliveHelpmate Analyzerなどがあります。

■ 掲載記事
詰将棋やチェス・プロブレムに関する記事を執筆してくださる方を募集しています。
内容は論考、作品紹介、入門、詰棋書紹介、宣伝など何でも構いません。
単発・連載どちらでも受け付けます。
また、字数制限は特にありません。
大まかな内容を編集長・駒井めいのTwitter@MeiKomai_Tsume)のDMまでお知らせください。
その際にEメールアドレスをお教えしますので、そちらに原稿を送付してください。