めいまが

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン

めいまが 2024年8月号

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン「めいまが」です。

1.編集長のおすすめ作品

担当:駒井めい

① 堺健太郎

詰将棋メーカー 2023年7月6日
詰将棋 3手 「優柔不断」

出題・解答:優柔不断 | 堺健太郎 | 詰将棋メーカー

(A)55玉、(イ)32玉、33銀上成 迄3手
(イ) 51玉は52歩成迄

(A) 54玉は32玉で不詰
(A) 35玉は51玉で不詰

初形では攻方44玉の後ろに攻方45香が配置されているのが目に付くでしょう。
攻方玉を動かして攻方香の利きを通せば、受方42玉に開王手が掛かります。
攻方玉の移動先の候補は35・54・55の三地点。
どこに動かすのが正解でしょうか。

とりあえず安直に初手54玉と横に動かしてみます。

2手目51玉とかわせば、

3手目52歩成迄で詰みます。

初手54玉と指した局面に戻ります。

2手目32玉はどうでしょう。

3手目33銀上成と指せれば詰みます。

しかし、この局面は受方24飛の利きが攻方54玉に当たっています。
これは王手放置(自玉を王手に晒す)の反則です。
3手目に33銀上成とは指せないのです。
従って、初手54玉と指す展開は詰みません。

初形に戻ります。

今度は少し捻って初手35玉と斜め後ろに引いてみます。

受方24飛の利きに当たるのを避けるのが目的です。
2手目32玉とかわしてくれれば、

3手目33銀上成迄で詰みます。

初手35玉と指した局面に戻ります。

2手目51玉はどうでしょう。

3手目52歩成と指せれば詰みます。

しかし、この局面は受方62角の利きが攻方35玉に当たっています。
これは王手放置(自玉を王手に晒す)の反則で、3手目に52歩成とは指せません。
初手35玉と指す展開も詰まないわけです。

初形に戻ります。

改めて初形を眺めてみると、攻方34銀は受方24飛のせいで身動きが取れず、攻方53歩は受方62角のせいで身動きが取れません。
初手54玉は受方62角の利きを避けていますが、受方24飛の利きを避けられていません。
初手35玉は受方24飛の利きを避けていますが、受方62角の利きを避けられていません。
受方24飛・62角の利きを同時に避ける方法はあるでしょうか。

正解は初手55玉です。

これなら受方24飛・62角の利きを同時に避けています。

2手目32玉は

3手目33銀上成迄で詰上り。

初手55玉と指した局面に戻ります。

2手目51玉は

3手目52歩成迄で詰上り。

初形に戻って手順を振り返ります。

(A)55玉、(イ)32玉、33銀上成 迄3手
(イ) 51玉は52歩成迄

(A) 54玉は32玉で不詰
(A) 35玉は51玉で不詰

出題・解答:優柔不断 | 堺健太郎 | 詰将棋メーカー

本作は変同解も含めて作意手順が実質的に2つあります。
更に、各作意手順に対応した紛れ手順が一つずつあります。
合計で4つの手順が有機的に結び付いた構造です。
短手数ながら深みのある作品に仕上がっています。
各手順を単体で見ても間接的な逆王手が絡む展開で、双玉らしい面白さがあります。

② せら 作

Web Fairy Paradise 2022年7月
協力詰 3手 2解

出題・解答:Web Fairy Paradise 第169号(2022年7月号)

【 協力詰 】
先後協力して最短手数で受方の玉を詰める。
無駄合の概念はなく、合駒は全て有効。

【 n解 】
解が複数あり、指定されたn個の解を求める出題形式。 

1) 35飛成、64玉、75龍 迄3手
2) 35飛不成、44玉、33飛寄成 迄3手 

本作は「協力詰」と呼ばれる変則ルールの詰将棋です。
普通の詰将棋と大きく異なるのは受方の対応です。
普通の詰将棋では受方は自玉(受方玉)が詰まないように攻方に抵抗します。
しかし、協力詰では受方は自玉(受方玉)が詰むように攻方に協力します。
つまり、攻方も受方も受方玉を詰ますのが目的というわけです。

また、「2解」と書かれているのは、正解手順が二つあることを表しています。

初形を再掲します。

初手は35飛か75飛のどちらか。
対称形なので実質は一つです。
ここでは初手35飛で話を進めます。
ただ、初手35飛にも”成”か”不成”の二択があります。
実はどちらも正解です。

まずは初手35飛”成”から。

受方は自玉(受方玉)が詰むように攻方に協力します。
2手目で受方はどう”忖度”したらよいでしょうか。

2手目の正解は64玉。

3手目75龍と龍・飛を連結させて詰上りです。

初形に戻ります。

2解なのでもう一つ正解手順があります。
二つ目の正解は初手35飛”不成”。

やはり受方は自玉(受方玉)が詰むように攻方に”忖度”します。
一つ目の正解手順と同様に2手目64玉と指してしまうと

3手以内に詰みません。
先程は初手35飛”成”と指したから3手目75龍で詰みでした。
今は初手35飛”不成”と指したので、今更3手目75飛”成”とは指せません。

初手35飛不成と指した局面に戻ります。

受方はどう協力したらよいでしょうか。
2手目の正解は44玉です。

初手で飛車を成らなかったことで、この協力手が可能になったわけです。
3手目33飛寄成とやはり龍・飛を連結させて詰上りです。

初形に戻って手順を振り返ります。

1) 35飛成、64玉、75龍 迄3手
2) 35飛不成、44玉、33飛寄成 迄3手 

本作は初手で飛車を成るか否かで分岐する2解です。
二つの正解手順は単に左右を反転したような詰上りに見えるでしょう。
しかし、よく見ると龍・飛の上下関係も反転しています。
この絶妙な差異が二つの正解手順を有機的に結び付け、全体の美しさを演出しています。

③ Roman Zalokotsky and Evgeny Sorokin 作

Schach-Echo 1971年

Helpmate in 2, Set play

ビューアで鑑賞:https://www.yacpdb.org/#371740

【 Helpmate in n (H#n) 】
黒から指し始め、黒白協力してn手(最短手数)で黒のキングをメイトする。
もしnが半整数なら、白から指し始める。
詰将棋と異なり白にチェックする義務はない。

【 Set play 】
出題図に対して手番を変更しても解く。

1...Se3# (Set)
1.Rxg2 Sd3 2.?? Re1# (Try)
1.Rxg2 Sd3 2.Rg1 Rf2#
※ナイト(Knight)の棋譜表記は通常「N」ですが、チェス・プロブレムでは「S」と表します。

白の目的は黒キングのメイトです。
黒は味方のキング(黒キング)がメイトされないように抵抗するのが、Directmateなどで見られる普通の問題設定です。
しかし、Helpmateでは黒は味方のキング(黒キング)がメイトされるように白に協力します。
つまり、白も黒も黒キングのメイトが目的です。

詰将棋と違って、攻める側の白はチェック以外の手も指せます。
また、チェスは通常白から指し始めますが、Helpmateでは基本的に黒から指し始めます。

「Set play」と書かれているので、まずは白から指し始めて黒キングがメイトされる手順を考えてみます。
初形を再掲します。

白から指し始める場合は実に単純です。
白が1...Se3と指せば、黒キングがメイトされます。

初形に戻ります。

次は黒から指し始めて黒キングがメイトされる手順を考えます。
ただ、白の1...Se3で黒キングがメイトされることが先程分かりました。
黒は特別なことをせず、手待ちをすればよさそうです。

黒が指せる駒を確認します。

黒の駒はf1の黒キングとg1の黒ルークです。
ただ、f1の黒キングは反則にならずに動かせる先がありません。
一方で、g1の黒ルークはh1・g2の地点に動かせます。

1.Rh1を検討します。

h5の白キングに対してチェックが掛かっています。
このチェックを外さなければならず、とりあえず白は1...Kg4とかわしておきます。


黒キングの逃げ道を封鎖するために、2.Rg1と黒ルークを元の位置に戻します。

これで白は待望の2...Se3を指して黒キングがメイト

…と思いきや、よく見るとg4の白キングにチェックが掛かっています。
つまり、白の2...Se3は反則になるため指せないのです。

黒が1.Rh1と指した局面に戻ります。

h5の白キングに掛かったチェックを解除するなら、1...Sh4と白ナイトで受ける手もあります。

しかし、白ナイトを動かしてしまったことで、次に白がSe3と指せなくなっています。
黒が最初に1.Rh1と指してしまうと上手くいかないのです。

初形に戻ります。

残された黒の手は1.Rxg2です。

白ナイトを取ってしまうので、白はSe3を狙えなくなります。
一見すると論外なようですが、実はこれが正解ルート。
初形では黒に手待ちする手段がないわけです。

白は新たなメイト形を模索することになります。
白は1...Sd3と指すのが正解です。

これは次に2...Re1と指して黒キングをメイトするのを狙った手です。

白が1...Sd3と指した局面に戻ります。

黒は手待ちができればよいのですが、やはり黒に有効な手待ちはありません。

黒が何を指すか悩ましいでしょう。
2.Rg1と黒ルークを元の位置に戻すのが正解です。

g2の地点が空いてしまったので、白が2...Re1を実行しても、3.Kg2と逃げられてしまいます。

黒が2.Rg1と指した局面に戻ります。

2...Rf2と別の手を指せば、黒キングがメイトされるようになっています。

初形に戻って手順を振り返ります。

1...Se3# (Set)
1.Rxg2 Sd3 2.?? Re1# (Try)
1.Rxg2 Sd3 2.Rg1 Rf2#

ビューアで鑑賞:https://www.yacpdb.org/#371740

本作は白が1...Se3や1...Sd3~2...Re1と二度に渡ってメイトを狙うも、黒にその狙いを壊されてしまう構成です。
Helpmateなので黒は白に協力したいのですが、協力したくてもできない状況に置かれているわけです。
最後は全く異なるメイト形に至っていて、狙いが完璧に表現されています。
シンプルな初形からこれほど重層的な手順が現れようとは、にわかに信じがたいですね。

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