めいまが

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン

めいまが 2022年1月号

詰将棋とチェス・プロブレム愛好家の駒井めいが編集長を務めるWebマガジン「めいまが」です。
今月号から詰将棋作家でプロブレミストのシナトラ氏にご協力いただけることになり、新コーナー「シナトラセレクション」が始まります。

1.シナトラセレクション 第1回

担当:シナトラ

こんにちは。詰将棋作家でプロブレミストのシナトラです。
駒井さんにお願いしたらページをいただけたので、「シナトラセレクション」というコーナーを始めることにしました。
このコーナーでは、私が興味を持った伝統ルール・フェアリー詰将棋チェスプロブレムを少しずつ紹介していく予定です。
拙いところもあると思いますがよろしくお願いします。

第1回となる今回は伝統ルールの作品をご紹介します。

岡部雄二 作 将棋世界 2021年6月号

22銀成、同玉、26香、24桂合、同香、12玉、
22香成、同玉、11銀、12玉、24桂、同馬、
32飛成、13玉、12龍、同玉、22角成 まで17手。

32飛成が「らしい」手ですが同馬で逃れ。
とりあえず銀を成り捨てて、26香(以遠)と打ってみましょう。
12玉は23銀以下、また24歩合は同香、12玉、13歩があるので24桂合と決まります。
面白いのはここからで、同香に一旦12玉とかわすのが好防。
23銀で簡単に詰みそうなのですが、香を24に近づけた効果で案外詰みません。
そこで、22香成~11銀!と1度捨てた銀を打ち直すのが絶妙の解決手段です。
これで初形から持駒が桂に変わった形になり、24桂~32飛成以下の収束となります。

9手かけて銀の打ち直すと持駒変換(銀・香→桂)になっているというマジック。
端正な初形も予定調和的な収束も美しく、名品と思います。

今回はここまで。
次回はフェアリー詰将棋をご紹介します。

2.編集長のおすすめ作品

① Charles Masson Fox 作
The Chess Amateur 1930年 1st Prize
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Helpmate in 2, with set-play (H#2*)

【 Helpmate in n (H#n) 】
黒から指し始め、黒白協力してn手(最短手数)で黒のキングを詰ます。もしnが半整数なら、白から指し始める。
詰将棋と異なり、白に王手義務はない。
【 set-play (*) 】
通常指し始める側のプレイヤーが初手をパスし、他方のプレイヤーから指し始めると仮定した場合に生じる詰手順。

1...gxf5 2.Rf2 Se3#
1.Bc5 Sg5 2.Rd4 Se3#
※ナイト(Knight)の棋譜表記は通常「N」ですが、チェス・プロブレムでは「S」と表します。

1930年とかなり古い作品です。
h1の白ビショップとd5の黒キングを結ぶラインに、黒ルークが2枚配置されています(Re4, Rf3)。
e4・f3どちらかの黒ルークがラインから外れれば、残されたもう一方の黒ルークがPinされるというHalf-pin※1の構造になっています。
set-playではe4のルークがPinされて動けず、最後はPin-mate※2となります。
実際の解ではf3のルークがPinされてPin-mateです。
これら2つの手順を合わせてHalf-pinのテーマが表現されています。
どちらの手順もラインから外れる方の黒ルークが黒ビショップの利きを遮断する意味付けで統一されているところも見事です。
白の2手目がどちらの手順も2...Se3と被っている点だけは少し残念です。
ただ、コンピュータ解析ができなかった時代に、これほどの完全作が発表されているのは驚きでしょう。
ところで、実際の解をset-playのように進めても一見上手くいきそうに見えます。
しかし、1.Rf2 gxf5 2.?? Se3#のように、黒の2手目で有効な手待ち(Tempo move※3)がなく困ってしまいます。
従って、実際の解ではset-playと異なる手順が成立するわけです。

※1 Half-pin [1]
Two pieces of the same color are placed so that when one moves the other is pinned.
※2 Pin-mate [1]
A mating position in which one or several men of the mated King's side are pinned, and pin(s) is (are) used to the benefit of the mating side.
※3 Tempo move [1]
A move that transfers the obligation to make a move to the opponent for his disadvantage. In a helpmate a move made by either side in order not to disrupt the prospective mate or continuation.
[1] M. Velimirovic and K. Valtonen: "Encyclopedia Of Chess Problems -Themes And Terms-" (2012)

② シナトラ 作 詰将棋メーカー 2020年7月26日
詰将棋 5手 2解

Half-pin(2解) | シナトラ | 詰将棋メーカー

【 n解 】
解が複数あり、指定されたn個の解を求める出題形式。

1) 52龍、44玉、35銀上、同飛、54角成 迄5手。
2) 52角成、44玉、35銀引、同飛、53龍 迄5手。

詰将棋超短編でHalf-pinを表現した作品です。
受方65飛と攻方61王を結ぶラインに、攻方62龍・63角が配置されています。
龍が動けば角が、角が動けば龍がPinされるというHalf-pinの構造になっています。
初手52龍に44玉と進んだ局面では、攻方63角がPinされていて54角成が実行できません。
また、初手52角成に44玉と進んだ局面では、攻方62龍がPinされていて53龍が実行できません。
2つの解を合わせてHalf-pinのテーマが表現されています。
受方65飛を動かしてUnpinすることになりますが、3手目35銀”上”・35銀”引”と活用する銀が異なっているのも見逃せないポイントです。
作者解説で述べられているのでここでも触れておきますが、2つの解で受方の着手が被っている点は、手順の対照性を重視するなら確かに気になるところです。
しかし、テーマが明快に表現されている点や、3手目で活用する銀が区別されている点など、十分な魅力を持った作品だと思います。

3.募集

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